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「そういう仕様ですから......てか、ちょと電話中にうるさいよーモラルがないなぁこれだからニンゲンって生物はダメなんだ」
もう、文句を言う気力もなかった。モラルとか、生き物とか、そもそも死に物の牛に語られているこのシュールな場面では何を言っても意味を成すまい。
「あーコッちゃん?え!?マジ近いじゃん!!奇遇ー。いやさ面白いのがあるからお出でよ!うん、駅近の焼肉屋ー」
電話を終えた牛がこちらにドヤ顔を向ける。
一体この牛は僕になんの恨みがあるというのか。いや深く考えるのはよそう。そう思った時だった。店員がようやく僕のテーブルまで卵雑炊を運んでくる。
「お待たせしましました。卵雑炊の鶏がらスープ濃いめです」
「あっ、ありがと......う、うわああぁぁあ!!!」
思わず絶叫した。分かっている。この店員にも見えてない。見えてないと分かってなお、叫び声の抑えることが出来ない光景がそこにあった。
「あっ、マジで見えるんだ。アンタすげぇな!リアクションもいいし、オイラ気に入っちゃったよ」
牛と同じく悠長に話すニワトリが、透けるという霊の特性を最大限に活かした登場。即ち、卵雑炊から顔だけを飛び出させた姿で登場したという想像の遥か上をいく光景だったが、そんなものが見えない店員は驚いた様子で僕に話しかける。
「お......お客様、どうかなさいましたか!?」
「い......いえ、いえ大丈夫です。失礼しました」
なんとかその場をしのぐも、もはや〆の卵雑炊さえどうでもいい気分だった。もう、とにかくこれをたいらげて帰ってしまおう。
このニワトリも何かしら俺の卵だとか言うんだろうが、そんなものさっきの二番煎じだ。僕は自分の順応力にはそこそこの自信がある。
「あー、この卵ね。うんうんよく覚えてるよ」
はじまった。しかし、僕は気にせずそれを口に運ぶ。気になどしてなるものか......しかもこの卵は無精卵、大した言葉もある訳がない。
「いやぁ、懐かしいなぁ俺さ自分がお尻を痛めて産んだ卵は全部覚えてるのよ」
「ぐっ......」
そうきたか。しかし、耐えた。
僕は自分の順応力には自信があるのだ。確かに思いの外痛い攻撃だった。
雑学オタクでもある僕は知っている。
ニワトリの卵は肛門から排出されるところは動画も見たことがあるだけにそれはなかなかの威力ではあったが僕の順応力の壁は今やもっと厚い。
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