夜間バスー死出行き

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とある町に伝わる不可思議な怪談話。深夜に山奥へと向かう片道のバスの噂。時間と条件が相まってか、そのバスには自殺志願者ばかりが乗り込むという。そして今日、俺もそのバスに乗ろうと訪れた一人だった。 初夏も過ぎたというのに、深夜というのはこうも冷え込むものなのだろうか、それとも人口の問題だろうか、深夜のバスであり、観光地でもないのだから当然といえば当然なのだが、バス停には俺と初老の男性、2人だけしかいなかった。一向に現れる気配のないバスへの不安感と焦燥感。 (よく考えれば不思議なものだな。俺は自殺しに行くのに、焦る必要も不安もある訳がないじゃないか) そうは思うものの、やはりどうしようもない気分がこみ上げてくる。更に時間だけが過ぎ、足下へと無造作に捨てたタバコの吸殻が10本を超えてたそんな時だった。 「なかなか来ませんね」 「え......ええ......そうですね」 となりにいた初老の男性が俺に話しかけてきた。他人に話しかけられる機会などそう多くはないからだろうか、軽くドギマギしながら返事を返すが、その後はまた沈黙が続く。しばらくの沈黙に耐えかねて今度は俺が話しかけた。 「あの......貴方もバスを待たれて?」 自殺、というキーワードはあえて口にはしなかったが、初老の男性はその意図を察したのかニコリと微笑んで返した。 「えぇ......やはりあなたもですか。あなたはまだお若く見えるが、どうしてこのバスに?」 「......」 しばらく悩んだ。見ず知らずの相手に話すようなことかとも思ったが、どうせ終わる人生なのだと思うと、わざわざ断る理由も見つからなかった。 「とても好きだった妻がいたんです」 「ほぅ......」 年の功だろうか、彼は小さく相槌をうって話を促してきた。それが話のし易い流れを作ったのか、単に俺が誰かに愚痴るきっかけが欲しかったのかは分からないが、とにかく俺は赤裸々に全てを話してしまった。
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