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「あなたはどこから来たの?」
私が被験者の女性にそう話しかけられた時の事だ。
「あぁ、私は??県の??市という……」
「あら!私も??市よ!ご近所じゃない。よろしくお願いします」
「あぁ、それは心強い。こちらこそよろしくお願いします」
そう、答えた時だった。
「あなたはどこから来たの?」
「え!?」
「あなたはどこから来たの?」
「あなたはどこから来たの?」
「あなたはどこから来たの?」
「あなたはどこから来たの?」
これほど背筋が凍る様な思いを感じた事は戦場でさえ無かった。定期的なんてものではない。会話をかぶせるほどのペースで繰り返される同様の質問は今尚、私の常識では意図を計りかねる……どこか無機質な、どこか機械的な、質問。もしや彼女は私の知識をはるかに超えるが、機械的な何かなのかもしれないし、先の推測通りの薬の影響、どちらにせよ施設の研究の規模、戦争の生物兵器の研究か、そもそも人外の施設か、その様な凡そ信じ難い可能性さえ否定できなくなりただただ身の危険を覚えたのはきっとこの後からだろう。
そして、なにより恐ろしいのはここの組員はすでに私の家族を懐柔している事だ。定期的に家に迎えに来る組員に対して息子達の反応は非常に礼儀正しく、逆に私が不調でも訴えて同行を拒否しようものなら総出でそれを否定し、鬼の様な形相を向けるのだ。少なからず息子達を信用しようにも組員はどうにも信用が置けない。組員が一人一人と談笑を交えて情報採取をする時に話す言葉はどれも一律して一定の礼節を持ち、その様子には旅館か何かにもてなされている様に感じる事もあるが、小さくは組員の趣味、大きくは施設の説明や何かに食事や入浴といった裏に誘導が見える行動への誘いでは他の被験者と自分、またさらに他の被験者に語る会話は集計すると限りなく矛盾に満ちている。日中の空き時間に行われるボールや風船を使った軽運動は戦争で敵国の牢屋に入れられた時に見た最低限の運動の強制にも似ている様な、ただの身体能力の情報採取の目的の様な、いや、ここに関しては意図を探るに足るピースがあまりにも少ない故にそれを考察するのは時期早々かもしれない。
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