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兎にも角にも摩訶不思議、過去の常識からは判別の出来ない異空間、それがあの施設であり、現在の施設もまた、そこと大きく変化はない。ただ、前の施設の何倍も大きく、百人以上の被験者を囲んでいる様な今の施設は前ほど盛んな情報採取や水へのこだわりは見えない。また、恐らく……確実に前の施設よりも重篤な容体の者がこの施設には多い様に思える。それは80の私から見ても明らかな高齢の容姿をした男女や、車椅子やベットで搬送される者も多く、薬の影響なのか、あの、同じ質問を同じ質問の間に繰り返す者もやや多くいる。私は今、この環境に大きな危機を覚えている。
(もしかしたら、私はもうすぐ殺されるのかもしれない……)
私の常識では判断できない環境と再三言い諦める素振りをしながら、私の脳はこの混沌とした現実を無理やりにでも判断しようとして、出した結論は、いや、結論と言うほどに確実なものでもなく、凡そ信じ難い話だが、恐らく、もしやすれば、私は、この施設の人間は前の施設の実験で不要になったもの達の収容所なのかもしれない。そうだとすれば、仮にそうだとするならば、私は一体何をしたと言うのだろう。
幼少に勉学を怠ったわけでもない。
お国のために戦争にも出向き、社会人として定年までを捧げた。
生物としては孫の顔を拝むまで役割を果たした。
秀でてはなくとも、決して怠った人生ではなかったはずだ。
なぜこんな目にあうのか?
なぜこんな事になっているのか?
なぜ、なぜ私なのか……
私は程なくしてここからの脱走ばかりを考えるようになった。
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