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本来なら仲間の一人も欲しいところだったが、組員は当然にしても、被験者にさえ私は信頼を持てるものを見つける事が出来なかった。それはきっと……あの声が耳のどこかに残っていたからかもしれない。とにかく私は、たった一人の脱走計画を思案し始めた。大してものを用意する環境もない私は脱走後の当面の食事の確保の為に配給される食事の一部をため込む以外にできる事がなく、脱走の可能性をあげる努力の多くは情報の集積となり、一月ほど後、ついに、その日はやってきた。
(今日の組員、帰る時間、今までで一番のチャンスだ……)
決行の時間は夜間。組員の絶対数が下がる時間帯、そして今日は先日から現れた研修中の名札をつけた組員、そしてベテランだが50代だろう恒例の組員の二人しかいないというこの上ない好機だ。脱走の手段はシンプルに荒々しい手法。まず私は二人を撹乱する為に見回り後、最上階の一室に侵入してナースコールを鳴らす。少なくてもこれで一人をここに誘導できるし、上手く事が運べば研修中のもう一方も同時にここに向かうかもしれない。とはいえ念を入れて私は組員の控え室から遠い方の階段を使って一つ下の階でまたナースコールを鳴らす。これで確実に二人を呼び出せたし、撹乱には充分だろう。私はできる限り急いで階段を下る。息を切らせながら一階に到着。
「はっ……はっ……はっ……は……」
しばらくぶりになる過度な運動に心臓が飛び出るほどに胸が痛み、呼吸が整わない。しかし、時間はかけられない。正面のドアは鍵がかかっている事は分かっているが、その隣のガラス窓ならば脱走は可能だ。内鍵、そして下に隠された小さなストッパーもはずせばガラス窓はあっさりと開く……と、思っていた。
《キュイキュイキュイキュイ!!》
「!!……くそったれ!!」
窓の開口と同時にけたたましいブザーが鳴る。隠されたストッパーまでは把握していた私もまさか夜間だけ、人数不足を補う警報を設置している事は想定外だった。とはいえ、今を逃せばそれこそどんな罰を受けるかは想像するも恐ろしい。私は窓に足をかけて外に降りようとする。運動神経の衰えた身体でなんとか窓に登る。
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