怒りの自費出版

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学生の頃、 よし、小説を書いてみよう、詩を書いてみよう、童話も書こうと なんでもごちゃまぜの活字本を作ろうとした。 当時は自費出版ブームで、 私は大手本屋さんの自費出版コーナーに申し込んだ。 見積もりは、 本のサイズ、ページ数、本文紙、表紙紙、印刷部数、文字量でおよそ見当がつく。 見積金額は200ページ、100部で当時33万円だったと思う。 さっそく私は原稿をまとめ、資金集めのアルバイトをした。 その当時私は近所の梅酒メーカーにアルバイトをしていて、おばちゃんたちと一緒に、 瓶のラベル貼りなど簡単な雑務をしていた。 半年後、 原稿もお金もメドがたつと、その大手本屋さんに原稿を入れた。 バイトの最中、私は自費出版のことを自慢げにおばちゃんたちに話をしていた。 お金がたまったから、今月で終わりだよ、さみしいね、と告げた。 「ざんねんだねぇ」と別れを惜しんでいた矢先、事件が起きた。 学生である私は、起きるのはだいたい8時ごろだ。 朝8時前に電話がなった。 相手は自費出版を申し込んだ大手本屋さん(名前を出してやりたい)の担当者だ。 なんでも、昨日ゲラ(印刷物の見本)があがったのだが、 ページ数が予定よりオーバーしてしまい、300ページを超えてしまいました。 よって見積金額が33万円ではなく56万円となりました、どうしましょう? というものだ。 原因は簡単で、原稿の文字量で単純計算すると33万円なのだが、 私の原稿には詩もあるので、短文で改行が多いと、ページが足りなくなるのである。 1、2万円のオーバーならいざしらず「どうしましょうじゃねえっ!」といいたいのを我慢した。 こんな朝から電話したということは、この担当者もあせったはずだ。 なんとか理解してもらおうと心配していたのだろうと思う。 しかたなく、了承し、お金はきちんと払います、もう少し待ってください・・・ と、なんだか借金取りへの返済みたいになり、私は落ち込んだ。 さっそくバイトを延長しなくてはならない。 バイト先のおばちゃんたちには合わす顔がないので、 同じ梅酒メーカー内の梅の荷卸しのバイトにした。 時給は高いが肉体労働となり、こんどはむさくるしいおじさんたちと一緒に仕事をした。 梅酒を飲むたび、なつかしさと、怒りが交差する。
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