いいわけする貼り紙

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ラーメンとは不思議な食べ物だ。 誰もが普通に好きで、好きすぎて、自分で作り、さらに好きすぎて店を持ち、 さらにさらに好きすぎて、ラーメンしか見えず、お客を見失う。 あるオープンしたばかりの小さなラーメン屋にいったとき、 店内のいたるところにA4サイズほどの貼り紙が多いことに気が付いた。 「スープが終えたら営業時間でも店を閉める場合があります」 「店内が込み合った場合、入店をお断わりする場合があります」 ・・・など、すでに込み合う店を想定しているこの自信。 車の置き場のこと、ラーメンの味について、みな貼り紙だ。 壁に隙間があれば、なにか貼らなくちゃと思うのだろうか。 店主は30歳台、一人だ。 お客様のご記入ノートがあり、 私はラーメンを食べ終えると、そのノートに、 「貼り紙が多すぎて、次回、来れない場合があります」と 皮肉をこめて書いた。 その店は一年後、消えた。 もうひとつまた妙な人気店がある。 その店は豚骨濃度がありすぎることが自慢の店だ。 自分とこのラーメンがいかに努力をしたとか、思いをこめたとかを、 店内の壁にペンキで、でかでかと書いてある。 麺へのこだわり、 麺の湯で方の注文の仕方まで貼り紙がある。 大型掲示板のネットでも、ここの店長は客前でアルバイトを叱っていて嫌だの 書かれていたのを見つけたことがある。 気になった貼り紙にこう書いてある。 「あまりにもラーメンにこだわるあまり、 お客様に不愉快な思いをさせてしまう場合があります」 たぶん、ネットでの噂を知ったのだろうと思う。 気になるのはその文の下、赤い文字で書かれてある。 「・・・店長が頑固者ですから」とあり、あきれてイラッとくる。 ここの店長はどうもおしゃべりらしい。 さっきから、ラーメンを作りながらバイトにこまごまと注意したり、 ランチでの客が多かったことを愚痴ってみたり、ちょっとうるさい。 そうか! もしかしたら、貼り紙を貼りたがるのは、 むしろ、店長のしゃべり好き。 先に書いた三十台の店長も、 ラーメンの話をしたら止まらない人なんじゃないかな?
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