怒りのまずさ

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お昼ご飯を食べるとき、 よく、こういう会話って、不思議と多い。 「お昼、〇〇ラーメンに行こうよ」 「えー、あそこまずいじゃない?」 言葉にするほど「まずい」食事をだす飲食店を、私はこれまで知らない。 だいたい大げさすぎる。 ところが、私は、気持ち悪いほどまずいラーメンに出会ってしまった。 その店は、大通りから離れた古民家を一部改装したラーメン店だ。 まわりは畑や田んぼがあるのどかなところだ。 以前から、なんでこんなところのあるのだろうと、私は興味津々でその店にはいった。 お昼からして、私ひとり。 五十過ぎの腹の出た無愛想なオヤジが一人、カウンターのテレビを見ていた。 その店は薄暗く、古めかしいポスターなどを貼り、 戦後の昭和を演出しているみたいだった。二十人ほど入れるようだ。 窓がなく、店内を電球で照らして、昼なのに、夜のような雰囲気だ。 味噌ラーメンが自慢らしいので、それを頼んだ。 しばらくして、それは来た。 そのラーメンは、味噌色になぜかうっすらと黄緑色に見えた。 スープを一口・・・ 例えていうなら、鳥の生レバーを味噌でといて仕上げたような、 どろっとしたというより、ネバり気のある液体だ。 獣臭さが口中にひろがった。 私の家は農家なので、米の一粒でも残してはいけませんという環境で育った。 だから、このラーメンは残すのに勇気がいる。 食べ物を粗末にしてはいけません・・・ どうしよう、残そうか、どうしよう・・・とりあえず、麺を食べ、スープをそのまま残した。 すぐ勘定をと店を出ようしたときに、仕切りの壁の影に一人、先客の男性客がいた。 タバコを吸っていた。ほとんど手つかずのラーメンがテーブルにある。 カウンターの内側にいるオヤジに金を払おうとしたとき、 カウンターにそのオヤジの息子らしきクソガキが一人、 私の顔をじっと見ながらラーメンを食っていた。 「ありがとうございました」ぐらいいえばいいのに・・・ なぜ来たの? みたいな顔をしている。 猫の視線みたいに、私がカウンターの前を通り過ぎるのを、 首を回して目だけで追っている。 手には、麺をハシで持ち上げたままだ。 ラーメンのまずさとともに怒りがふつふつとわき起こる。
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