怒りの営業禅問答

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これは、以前私が広告代理店の営業をしていたときの話。 とある地方の、住宅メーカーさんの広告の仕事をしていた。 その住宅メーカーの広告担当の課長さんとの仲は、けして悪くなく、 ふだんでもたまに飲んだりする仲だ。 ある日、雑誌に広告を掲載し、しばらくしてから その課長さんが突然静かに起こり始め、 なにを怒ってるのか考えろ! といわれてしまった。 突然のことで、当時若く未熟な私は、 なにを怒っているのか、怒らせたのか、さっぱりわからなかった。 実は今でも怒らせた記憶はあるのだけど、 いったいそれがなぜだか、いまだにわからない。 当時、朝一にその課長さんに電話をする。 「〇〇〇のことでしょうか」 「ちがうっ!」ガチャ。と切られること数回。 一か月後、その課長さんの下にいる部下の人に尋ねてみた。 すると、どうも雑誌広告の値段を負けてくれなかった。 ということだった。 値引きの話・・・ いやいや、だってあらかじめ課長さんとのつきあいで、 値引きして値決めした広告料金なのに? すると、課長さんの部下の人は、広告効果がなく、 どうやら、さらに値引きの相談をしたかったらしい、とのことだった。 たしかに、当時1p広告で80万円だったような気がする。 地方の物件とはいえ、安くない広告料だ。 当時の私とすれば、もう少し、親身になって広告効果だの、 いろいろとお世話をしてあげていればよかったな・・・とおもう。 数か月して、課長さんの部下は本社に戻され、 その地方営業店は、閉鎖した。 今頃どうしているだろう。 怒りはなぜかしら、ふと、思い出す。 そして、なぜだか、綿谷りさ作「蹴りたい背中」の冒頭を思い出す。 ーーさみしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く済んだ鈴の音で鳴り響いて 胸をしめつけるから、せめて周りには聞こえないように 紙はプリントを指で千切る。-- 今になって思うことは、 あの課長さんは、大人げない。 そう結論づけている。
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