怒りの看護師さん

2/2
前へ
/181ページ
次へ
私は数年前、脳外科の病院に入院していたことがある。 その時の話だ。 入院とはいえ、どこかが特別痛いとかいう支障がないことが救いだった。 さて、入院してからの数日後のある日。 私はベッドから立ち上がり、タオルをとろうと、 部屋の片隅にある棚に近づこうとしたそのときである。 「なにやっているの!」 50代の強面の看護師がさけんだ。 私は棚のタオルを片手でとる間際で、 手をとめ、片足を一歩まえにして腰をかがめたその瞬間だ。 だるまさんがころんだ状態となった。 うすい茶色のレンズの眼鏡なので、目の表情はわからない。 肩から腕にかけてのがっしりとした体つき、茶に染めた短髪。 それだけで威圧感がある。「・・・なにを、してたの?」 彼女はノート片手にペンでなにかを書きこもうとしていた。 「・・・そこのタオルを、とるところでした、すみません・・・」 私はなぜかあやまった。 彼女が部屋をでたあと、ホッと息をはいた。ふと、私は思い出して腹がたち、 なんでタオルをとるのに怒られなければならないんだーっ! と、声にだすわけにもいかず、怒りを押し殺した。 ある夜、私は点滴をしていた。 点滴が終了しそうになると、ブザーで知らせなければならなかった。 私はそれをすっかり忘れていた。 点滴がなくなったチューブは、こんどは私の血が外にでて逆流する。 チューブがしだいに血の色をそめて私は怖くなり、ブザーを鳴らした。 すると、あわててとんできたのはあの強面の看護師だった。 「なんですぐにブザーを鳴らさなかったの!」 そう怒鳴られても、私は、わすれてましたといったものなら、 殺されるほど怒鳴られると思い、 ただ「すみません」というしかなかった。 その看護師によって、まるでチューブが躍るかのように手際よく外された。 看護師は部屋からでたあと、私はまた、ホッとした。 ホッとして、おちついて壁を見てみると、 赤いてんてんがいくつもある。 チューブの先から飛びでた私の血だった。 あらためてあの看護師にはぜったい逆らいませんと、 心から誓った。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加