怒りの忘れ物

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それは学生のころの話だ。 年末、私は年賀はがき用のイラストを描いていた。 じつは私の年賀はウケがいいのだ。 既成ハガキで出したものなら、 「ふざけんな、あのバカみたいな年賀はがきで出せ」とおしかりと受けるのだ。 バカみたいな年賀・・・ここがこの話のミソである。 当時、学生なので、パソコンでつくることなどできず、 ペンでイラストを描いた。 それを印刷所にもちこんで印刷してもらうのだ。 どんなイラストかというと、幼児画みたいなタッチで、 来年の干支が寝そべって、つまらぬセリフが書いてあるだけなのだ。 たとえば虎は、半身で寝そべって、左手で頭をささえている絵で、 猫みたいな顔の、額に線路みたいな線を書き足しただけのものだ。 阪神のマスコットキャラクターになぞって、 「トラッキーじゃありません」だのセリフを入れていた。 その問題の事件は申年のハガキで起きた。 イラストが完成し、印刷所に持ち込むまえに、 その原画の控えとして、コンビニのコピー機でコピーをした。 そこで私は痛恨のミスをした。 なんと、そのイラストを、コンビニのコピー機に入れたまま、 忘れて出て行ってしまったのだった。 印刷所に原画を渡そうと思っていたところで、置き忘れたことに気がついた。 あわてて、コンビニに引き返す。 泣きそうだった。 怒りとくやしさ、悲しさとはずかしさで、 頭にのぼった血があふれて耳からふきだすのではないかと思ったくらいだ。 どうかまだコピー機のなかでバレずに眠っていてください! と祈りながら走った。 コンビニに入ると、私はへなへなと足元からくずれた。 すでにレジカウンターの前に、「忘れ物」と書かれた札といっしょに、 私の能天気なサルのイラストが飾られてあったのだ。 クレヨンタッチで、二頭身のサルが日の丸の旗をもっている。 フキダシに「3歳のおいっ子に描かせたイラストではありません」とある。 イラストには住所名前が書いていないので、素知らぬ顔をしてもよかった。 ただ、とぼけると、いつまでもそのイラストが「忘れ物」として、 レジカウンターに置かれたままになるので、ただの恥さらしである。 結局、「私がやりました」という刑事ドラマの犯人みたいに、 「それ、私のです・・・」と、うなだれた。
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