怒りのメールアドレス

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世の中、一流企業の社長や部長であろうが、 パソコンやメールでも使いこなさなければならない時代である。 これは、とあるお得意先の取締役部長自身が メールのやりとりを自分自身でやりだした頃の話である。 その取締役部長は60歳すぎの、打ち合わせでも笑顔をみせない厳格な人である。 ある日、 その部長から私のケータイに連絡が入った。 見積書をメールで送ってくれと、というものだ。 自分専用のメールアドレスを作ったから、そこへ送ってくれという。 この場合、 アドレスを書いて私の会社までFAXで送ってください、と言いたいが、 私が業者の下っぱの立場上、相手の手をわずらわせることになるので、 アドレスを口頭で聞かねばならない。 そこに、不幸が待ち構えていた。 「いいかい? えーと、〇〇〇、えー、てん〇〇てんでー・・・」 苦々しい部長の声が聞こえた。 てん? ドット「 .  」のことを言っているらしい。 「えーと」を入れるので、どこまでがアドレスの一部なのかわかりにくい。 「〇〇ななめぼう、〇〇みじかいぼう・・・」 ななめぼう・・・「 / 」スラッシュか? みじかいぼう「 - 」ハイフンか? 聞いていてイライラする。先方の部長が気をまわして、 FAXで送るよって言ってくれたら話が早いのに。 アドレスのやり取りだけで、電話で10分もかけている。 とどめは、 「〇〇あっとほーむ〇〇〇・・・」と部長が言う。 あっとほーむ?  私は言葉につまった。あっとほーむ、あっとほーむ・・・ ああっ! 「 @ 」アットマークか! なにが、あっとほーむだっ! 「あ、あっとほーむでございますね・・・」私は怒りと爆笑をこらえて歯をくいしばる。 「では、繰り返させていただきます・・・・ 〇〇てん〇〇ななめぼう〇〇みじかいぼう〇〇・・・ 〇〇あっとほーむ〇〇・・・で、ございますね」 「ちがうちがう、それでー抜けてるよ」部長。 「もう一度繰り返します、 〇〇てん〇〇ななめぼう・・・あっとほーむ〇〇・・・でございますね?」 「ちがうよ、それでー抜けてるってば」 さらに5分後・・・ どうやら部長は「D」を「でー」と読んでいることが、しばらくしてわかった。 結局、アドレスが書かれたFAXが送られてきた。
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