A子のこと

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A子のこと

2021 8月13日 わたしのエッセイのなかにA子はちょくちょくでてくる。 わたしの親戚の子で、26歳。 トランスジェンダーで体は男、心は女。 いまは手術をして、体も女になっている。 彼女は高校生のころ、高校がちかいからという理由で、 上田市に住むわたしの家に居候し、 その縁もあってか、毎年ちょくちょくわたしの家にくる。 彼女は今、東京で水商売の経営者になった。 稼ぎがいいのか、わたしの家に来るたび、 服装、バッグ、アクセサリーが派手になっていった。 そんななか、コロナ真っ最中に上田にいきたいと電話をもらった。 なんでも、コロナだけに商売をしても客がこないので、 店を休む日がおおくなったというのだ。 しかたなく、わたしは上田駅まで彼女を迎え、 道中、夜に飲むワインを買った。一本6千円もするものだ。 あれこれおつまみを買い、1万円をこえた。たった数時間の飲み代だ。 母と二人で1週間分の食事をはるかにこえる金額だ。 また、わたしの貯蓄から消えていく。 羽振りがいいのなら、今晩泊って世話になるのだから、 お礼にアタシが金だすわ、くらいいえばいいのに、とおもった。 その夜、彼女は酔っ払い、くだをまいた。 ワインをあけると、冷蔵庫から勝手にわたしのチューハイを飲んだ。 話の中心は、わたしの今の生活ぶりにたいしての文句だ。 わたしが無職であるがゆえに、あまりにものんきに映ったのかもしれない。 仕事をせずにだらだらしているダメなヤツみたいなことをいわれた。 介護離職をしたことを知っているはずなのに。 わたしにたいして、「おめーはよー」なんて言葉もでてきた。 さすがに腹がたち、 高校や専門学校の保証人になったのはだれだ! 上田駅まで迎えにいって、その高い酒を買ったのはだれだ! 飲み屋のママのくせにそのくちのきき方はなんだ! と、わたしはのべつまくなくさけんだ。 A子もさすがに疲弊し、 もう夜の3時をまわったから寝かせてほしいと哀願した。 わたしはさらに腹がたち、 あんたをここで寝かすために、シーツを洗ったのはだれだ! あったかいふとんにするために布団を干したのはだれだ! A子は泣きだし、わかった、わかったからと、うなだれた。 わたしはさらに腹が立ち、 いやだめだ、あんたはその布団で寝たいのか、寝れるのか! あたしは朝7時半、神社のお祭りの手伝いをしなきゃなんないんだ! わたしは、いうことがなくなり、気持ちがらくになって、寝た。 そして、朝。 わたしは神社の手伝いをおえ、9時すぎに家にもどった。 A子はさすがにまだ寝ていた。 それでもわたしはA子のために朝食をつくってあげた。 起きたA子はケロリとして、昨晩のことがなかったかのように、 まるで夢であったかのように、 朝食つくってくれてありがとー、といった。 昼すぎ、A子が帰るころ、 わたしは家にあった冬物のロングをあわててもちだした。 昨年彼女が家に来たときのわすれものなのだ。 「これ、あんたのものでしょ?」その服をさしだした。 「いや、アタシのじゃない、ちがうだれかのでしょ?」 あきらかにA子のものであるとわかるのに、このとぼけよう。 そのワンピースはLLサイズ。 彼女はもと男だけに身長は171cm。 バレバレなのに、このずうずうしさ。 わたしはあきれかえって声がでなかった。怒りすらなかった。 そうしてハデな服を着こんで、彼女はしらをきりとおした。 お世話になりましたといって、でていった。
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