怒りの宴会芸

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私が勤めていた会社には、3月下旬に決算報告発表会というのがあった。 それは今年度の収支報告と、 来年度への意気込みを見せる各リーダーの所信表明の場であった。 このやる気パフォーマンスによって、 気むずかしい会長を、 「おー! 来年度はたのもしいぞ!」と喜ばすためのものでもあった。 その日の晩、今年度の売上げ目標達成ということで、 ごほうびとして、温泉のある観光ホテルで宴会となった。 宴会かぁ・・・私はお酌というご機嫌伺いが嫌なので憂うつだった。 さらに、 宴会場にステージがあるからと、 せっかくだから、なにか宴会芸をしろというお達しが急きょ部長からでた。 なにがせっかくだ! 宴会芸に社員たちは色めきたった。 社員は30人ほど。そこで3班に分かれてやることになった。 1班は、犬のかぶり物をしてカラオケで「明日があるさ」を歌った。 2班は、思いつかず、とりあえず、上司の胴上げを延々20回ほどやった。 3班は、日本体育大学卒の社員がいるということで、 日体大名物「エッサッサ」という演技パフォーマンスをやることになった。 やり方は「俺のやるとおりに後ろでマネしたらいいから」と、 日体大卒社員は自信ありげにいった。 「あたしもやるの?」ときくと「だっておまえ営業じゃん」と即座に返された。 総務の女どもは芸がゆるされて、なんで私が・・・と怒りがこみあがる。 男社員は浴衣の上をぬぎ、上半身裸になった。 そして、こぶしをゆっくり突き出し「エーーッさ、エーーッさ、エーッさっさ!」 日体大リーダーの大声と動きにあわせて、うしろの私たちがマネをする。 女子は私ひとり。Tシャツ姿で「エーッサッサー」と、こぶしをあげて泣きたくなった。 宴会は終わり、シメとして会長のあいさつとなった。 会長は、私たちが宴会芸をしていたステージにおもむろにあがり、 マイクを取った。 「・・・今回の宴会はまことに盛り上がらなかった!」と切り出した。 それから「残念だ」とか「気持ちがのらない」「来年度が心配だ」と、 会話のなかに苦々しくおりまぜた。 場はしんとなり、私たちはしゅんとなって聞いていた。 社員のなかには、 さきほどの犬のかぶり物をしたままの人や、 上半身裸のままの人も真面目な顔でうなだれていた。
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