集中している人を怒っていいのか悪いのか問題

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たとえば、教育が行きとどいた飲食店は お客の「すみませーん」という声には敏感だ。 ざわついた店内であっても、フレーズとして聞き分けているみたいだ。 そこはプロであり、お客にたいして集中しているのがわかる。 が、なかにはこの集中力はないでしょ、というものもある。 これは私がカラーコーディネーター検定の試験を受けていたときのことである。 商工会議所の会議室で試験が行われ、受験者は約20名。 制限時間は1時間45分。 1時間をすぎると係員に手をあげて、答案用紙をあずけて退室できる。 1時間がすぎ、すると、受験者のほとんどが退室してしまった。 なんと、残っているのは私をふくめ3人となってしまった。 ここで係員はこれで残っているのは3人か、最後までいるんだろうな、 という安堵に、勝手に緊張をほどいたのだろうと思う。 若い彼は私たちの正面を向いて、黒板前の席にすわり、 机のうえのなにかの書類に目をとおしているようなのだ。 私は解答を終えたと息をつくと、 へへ! やった! 最後にならなくてよかったと 退室しようと、得意げに手をあげた。 彼は机に目を落としたままで当然私の手を見もしない。 「すみませーん」と声をかける。「あのー」静かなのでよく声がとおる。 にもかかわらず、私の存在すら気にもせず、顔をあげてくれない。 かーーーと、顔がじわっと熱くなる。顔が赤くなっているのだろう。 ほかの2名の受験者がちらっと同時に私を見たのがわかる。 私はただ手をあげているだけの、まぬけな置物になってしまった。 しかたなく、席をたち、つかつかと若い係員の前まで近づいた。 足音すら気づいてくれないことに、私がビビってしまった。 あまりにも気づかないので、顔をちかづけ「すみません」といった。 そのときの彼の驚きよう。まさに電気が走ったようなタコ踊りを一瞬した。 その動作に私も驚いた。 集中力という点でもうひとつある。 おいしいラーメン屋さんがあると聞いて、 先輩とラーメンを食べていたときだ。 先輩の注文したラーメンが届いたとき、先輩は、あ、メールだといって、 返信をしはじめた。 その間15分。 ラーメンはのびきり、もっこりと器から盛り上がっていた。 先輩が麺をすすってひとこと。 「このラーメン、うまくねーな」
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