怒りの焼き肉大会

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これは会社の焼き肉大会の怒りである。 毎年8月になると会社の敷地内で 焼き肉大会をはじめるのである。 四車線の広い道路に面したまえでそれは行われる。 しかも、紅白幕や提灯を飾るのでまるでお祭りだ。 通行人に「どうだみろ!」といわんばかりなので、私は恥ずかしくていやだった。 準備は社員全員で行う。 男性は幕やライト、椅子、机、炭などの設営担当。 女性は、料理担当である。 肉は高いロースだのカルビなどを切り分けながら焼くのだ。 ただ、いつも嫌だと思うのは、 高い肉の焼きたては社長はじめ重役のところに届けにいく。 社長や重役はみな70歳をこえているので、それほど食えない。 2、3枚肉を食って、あとビールを飲めば腹いっぱいなのである。 すると重役のまえに置かれた肉は山積みとなり、冷えてかたくなる。 腹がたつのは焼き肉大会終了まぎわに、 「おいおい若いの、ここに肉があまっているぞ、食え、食え」と、 いらないゴミでもかたづけるみたいに、 ありがたみを売りつけるのだ。 私や下っぱの人間は、そんな重役まえにおかれた焼き肉をしり目に次の肉を焼くのだが、 鶏肉だとかバラ肉とかの、とりあえず足りない時の「非常肉」を食うしかない。 キューリをかじり、ビールで流し込み、 「ちぇっ、ロース食いてーよなー」と、 網の上の鳥肉を直接取っては食べていた。 きっと重役たちはそんな私らを見て「ほっほっほ、みんな楽しそうだ」 と自己満足していたにちがいない。 ある年、 いつもの焼き肉大会に珍客が訪れた。 なんと、市議選の候補者が「焼き肉大会」に演説に来たのだ。 どうやら社長と縁があり、票集めにきたらしい。 その演説の間、それまでワイワイやってた私たちは押し黙り、BGMをとめ、 炭のはぜる音だけがしていた。 まるでカラオケで十八番を歌うかのように、その候補者は気持ちよく自論を訴えた。 焼き肉は焼きたてが一番うまいにきまっているのに、 この男ときたら、えんえんと訴え、焼きたてをどんどん冷ませ、 私たちの酔いも冷めていった。 腹がたつのは「お食事のところすみませんでした」の一言もないのだ。 演説後、拍手が起こる。 が、おまえなんか誰が応援するものかと、 少なくとも私は思った。
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