怒りのグランクラス

2/2

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
これは数年前の、グランクラスが新設されたときの話である。 新設当時は実験的で、今みたいな弁当やらアルコールサービスはなかった。 正月休み。 私は信州上田から東京に向けて、 ひとり遊びに行くという、 おのぼりさん気分で、えいやッ! でグランクラスの席を購入した。 グリーン席すら乗ったことがない私がである。 仕事初めに、自慢話にしてやろうと思ったのだ。 運賃は自由席で6000円そこらだが、 グランクラスはその倍の12,000円ほどした。 席は2、3席の連結椅子ではなく、独立したソファーである。 新幹線の自由席は旅行にいく家族連れで満杯。立っている客も多い。 ほほほ、庶民は大変だねぇ。 むしろグランクラスの車両は空席が目立っていた。 私はお金持ち気分で、めいいっぱい背もたれを倒し、足をのばした。 その反面、 両ひじが隣の人に気づかいなく置けるというだけで、 貧乏くさくしみじみとしていた。 ここに事件が起きた。 電車が動き出したとたん、赤ちゃんが泣きだしたのだ。 ななめ前にすわっている若い夫婦の子供だ。 しかも奥さんが2、3歳の子供を膝におき、だんなが赤ちゃんをあやしていた。 着こなしからして、医者かなにかわからないが、本物のお金持ちだろう。 よくいうザックリとしたセーターを着ていた。 あれがザックリというものか・・・と感心したくらいだ。 奥さんはカシミヤのセーターに、頭にサングラスを乗せていた。 赤ちゃんは気が狂わんばかりの声で泣いていた。 私は気が気ではなく、病気じゃないのかしらと、その夫婦に目を向ける。 しばらくおさまった、かと思ったら泣き出し、おさまっては泣き出した。 私はそのたび、席から顔をだし、だしては引っ込めるを繰り返した。 夫婦は交互に赤ちゃんをあやしてはいたが、赤ちゃんは一向におさまらず、 気がつけば、あっというまに東京に着いてしまった。 結局、この夫婦は赤ちゃんを抱いて車両から一回もでることはなかった。 東京に着いてからふと気づいたくらいだ。 さらに、せっかく窓側をとったのに、 ろくに景色を見てなかった。 ただハラハラしながらのグランクラス。 駅弁を買って食べることすら忘れていた。 あのときは、赤ちゃん以上に声をあげて泣きたかったな。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加