怒りの消しゴム男

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漢字検定を受験しにやってきた。 街のなかにある勤労者福祉センターの会議室が試験場だ。 私は2級だから、高校生ぐらいまでの漢字レベル。 この会場での受験する人は約70人ほど。 ほぼ高校生が9割。あとは大人1割。なかにはじーさんも2人いた。 さて、試験が始まった。 ここの会議室は長机にパイプいす。ひとつの机に2人が並ぶ。 私のとなりは大学生だろうか。高校生というにはハリがなく、 寝起きのままやってきたような、 夜なべで勉強してましたみたいな顔した男性だ。 一番うしろの席だった。 私は私で、すでに問題に頭を抱えていた。 うわー! さっきまで見てた漢字が出てる! 練習問題でなんどもやっても書けない漢字はそのたび蛍光ペンでチェックする。 書けない漢字は蛍光ペンでハデな色合いとなり、 肝心な問題が読めなくなるほどの漢字だ。 そんなとき、長机がガクガクと揺れた。 となりの男が、消しゴムをかけていた。 こいつもあいまいな記憶で困ってるんだなと、ふと思った。 それよりもまず私だ。 んー、試験前に見た、「イヤシメル」という文字だ。 わかっているわかっている。思い出せ思い出せ。 おぼろげに文字の輪郭が見えてきた。 そんなとき、 また長机が揺れた。男が消しゴムをかける。 この男は、腕全体で力を入れて消しゴムをかけるので、長机の揺れがハンパない。 私は私でこの「イヤシメル」という文字にこだわっていた。 気になってほかの問題にも手がつかない。 さっきまでこの漢字を見てたという、なんともかゆい背中に手が届くところなのだ。 試験時間は1時間。30分は過ぎた。 するとどうしたことか、隣の男の書いては消す、書いては消す運動が激しくなった。 その動きに私はしかたなく、シャーペンを用紙から離し、書いては、離した。 試験10分前になると、さらに男の動きは激しさが増し、 体全体で消しゴムをかけるので、長机の揺れが止まらない。 試験が終了した。 結局、私は「イヤシメル」が書けなかった。この男のせいだ。 怒りがふつふつ沸き起こる。 ところが、解答用紙を回収する試験官が4人もいたのだ。 一番うしろで私がこの消しゴム男に悩まされていたのに、 この試験官たちはいったい、うしろでなにを見てたのか・・・
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