川魚が苦手な人に無理やり食べさせていいものか問題

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川魚専門料理のKというお店は、私が担当の会社のお得意様。 ハヤ、アユ、鯉料理など、 地元ではこの店を知らない人はいない。 そこで私の会社の社長の一声で、宴会をそのKで行うことになった。 有名店だけに、その晩、テレビ取材があるというので、 ちょうどいい賑やかしになると思ったのだ。 参加者はちょうど10名。 社長、取締役、部長と、私や盛り上げの若手数人だ。 テレビ取材は夜6時からのニュースで、生放送。 川魚のハヤが今が旬というテーマで紹介されるという運びだ。 Kの大将も私のはからいに喜んでくれて、 「いやぁ、いいタイミングで宴会やってくれてうれしいよ」 と、私は宴会の幹事として鼻が高かった。 ここで問題が起きた。 参加した社員3人が酒がよわく、飲めない。 特に部長は、ウイスキーボンボンのチョコですら酔ってしまう人だ。 まぁ、それは飲み会とはいえ、大したことではない。 が、致命的な大問題があった。 川魚がどうにも食べられないという人も3名いた。 部長もその3人のうちのひとりだ。 なんで今頃、そんなことを・・・ 理由を聞くと、まさか川魚料理しかないとは思ってみなかったというのだ。 漬け物しか食えないという。 「魚を残しちゃだめでしょ・・・」 私は社員のなかで下っ端なので、口出しできず「残念ですねぇ・・・」 というしかなかった。 が、社長や取締役はそれにご立腹で、 「魚くわずに漬物だけ食うバカがいるか!」 と怒り、飲み会の席は暗く沈んだ。 そんなとき、テレビの取材が始まった。 「ハヤの塩焼きでお酒なんてオツですねー」と若い男性レポーターが、 「みなさん、盛り上がってますか!」と陽気にマイクを向け、 店内は「イエー!」 という声でわいた。 私たちの席はよどんでいたので、社長、取締役が「おおーっ!」と、 盛り上げに一役買った。 私も立ち上がってピースなどしておどけてみせた。 数日後、 Kの大将がテレビ取材のDVDが届いたから、 いっしょに見ようということになった。 バカみたいに無理してはしゃいでいる私や社長が映っている。 ただ、Kの大将は気づいていない。 川魚が食えず、 社長から怒られ、うつむいている社員数名の表情がちらっと映ったことを、 私は見逃さなかった。
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