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「我の啼き声……聞けば魄が剥がれる。そして我の姿を見た時」
囁いたナミの上気した肌に、妖しい紋様が浮かび上がった。それは肩から背中までを埋め尽くす、羽を模したような妖しき紋様。
「お、お……カラスの……羽……?」
「見たな……?」
いつの間にかナミの口は黒く艶めく嘴(くちばし)に様変わりしている。その鋭い先が、迷う事なく伊左の眼球を穿った。
「…………!!」
もう、伊左の口は悲鳴を上げられるほどの肉は残されていない。
目玉は幾度となく嘴に突かれ、ぐずついてボタボタと垂れ落ちる肉には瞬く間に蛆がわいた。
「かつて黄泉に堕ちたナミ様が同じ状態であった時……目にしたそなたは逃げだした。愛を叫び勇んでやって来たものを。その時の屈辱と裏切り……決して赦さぬ。そなたは未来永劫、繰り返しナミ様の恨みを魂に刻む……」
月が煌々と羽の紋様を浮かび上がらせる。
この世に降り立つ黄泉の王の使い鵺は、何よりも美しく艶めいた色をしていた。
息絶える刹那、伊左の胸に書画の最後の一節が去来する。
──その娘は生者を枯らす
ゆめゆめ忘るることなかれ──
【完】
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