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金森志穂は、小学校四年生の時に俺の学校へ転校してきた。転校生は普通チヤホヤされるものだが、黒とグレーの服に身を包み、固そうな髪を一本にしばった姿は、中年のオバハンのようで、何だか取っつきにくかった。 別に無視されているわけではないが、特に声を掛ける奴もいないまま一ヶ月が経ってしまった。担任教師はこれはヤバイと思ったのか、席の近かった俺のグループに熱心に働きかけを始めた。 「金森さんと考えなさい」 「金森さんも一緒に」 「金森さんの分も」 これが段々と煩わしくなってきた。 「まぁーた、金森さん~?」 「金森さんさぁ、自分から『入れて』って言わなきゃダメだよ」 女子も口々に説教し出した。 「もちょっと笑ったら?」 「暗いよ」 暗いように見えただけだ。本当に暗いかなんて、まだしゃべってないんだから分からない。ただ明るくはないってだけで。だけど、そんな曖昧な線引きが小学生に出来るはずがない。 遠足の班も一緒にされた。市内にある「少年自然の家」と呼ばれる施設まで歩いて、飯ごう炊さんや、虫取りをする。 「ミヤマ!ミヤマ!」 「いねぇ。カナブンならいる」 「いらねぇって!」 「カナブンしかいねぇ」 「だから、カナブンはいらねーって!」 誰からともなく、ニヤリとした。無表情で立っている金森志穂を見た。 「カナブン、いらねぇ」 爆笑が起こった。女子も気の毒そうにしながら、それでもシッカリ笑った。カナブンと呼ばれた金森は、頬を引きつらせて「やめてよ」と言った。 「カナブン!」 そう言ったのは俺じゃない。 「カナブン!」 俺じゃない。 「カナブンは、いーらね」 俺じゃ……。
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