0人が本棚に入れています
本棚に追加
金森志穂は、小学校四年生の時に俺の学校へ転校してきた。転校生は普通チヤホヤされるものだが、黒とグレーの服に身を包み、固そうな髪を一本にしばった姿は、中年のオバハンのようで、何だか取っつきにくかった。
別に無視されているわけではないが、特に声を掛ける奴もいないまま一ヶ月が経ってしまった。担任教師はこれはヤバイと思ったのか、席の近かった俺のグループに熱心に働きかけを始めた。
「金森さんと考えなさい」
「金森さんも一緒に」
「金森さんの分も」
これが段々と煩わしくなってきた。
「まぁーた、金森さん~?」
「金森さんさぁ、自分から『入れて』って言わなきゃダメだよ」
女子も口々に説教し出した。
「もちょっと笑ったら?」
「暗いよ」
暗いように見えただけだ。本当に暗いかなんて、まだしゃべってないんだから分からない。ただ明るくはないってだけで。だけど、そんな曖昧な線引きが小学生に出来るはずがない。
遠足の班も一緒にされた。市内にある「少年自然の家」と呼ばれる施設まで歩いて、飯ごう炊さんや、虫取りをする。
「ミヤマ!ミヤマ!」
「いねぇ。カナブンならいる」
「いらねぇって!」
「カナブンしかいねぇ」
「だから、カナブンはいらねーって!」
誰からともなく、ニヤリとした。無表情で立っている金森志穂を見た。
「カナブン、いらねぇ」
爆笑が起こった。女子も気の毒そうにしながら、それでもシッカリ笑った。カナブンと呼ばれた金森は、頬を引きつらせて「やめてよ」と言った。
「カナブン!」
そう言ったのは俺じゃない。
「カナブン!」
俺じゃない。
「カナブンは、いーらね」
俺じゃ……。
最初のコメントを投稿しよう!