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カナブンの連絡先なんて知らない。本人を確実に捕まえられるように、次の日の朝早く、俺はカナブンの家に向かった。
用件は言わないつもりだった。駅前のマクドナルドに、克己とカノジョ、そしてバンドメンバーが待っている。
ごくごく普通の一軒家。いかにもカナブンの家らしい。玄関前の階段を登り、インターフォンを押した。
俺の頭上で、窓の開く音がした。見上げると、オンナがこちらを怪訝な表情で見下ろしていた。久々に見たから、ちょっと分からなかったけど、どうやらカナブン本人だった。
「おーっす」
と、声を掛けた。
「どうしたの……」
カナブンの返事は、当然だ。
「ちょっと、三十分くらい出れる?」
「いいけど……」
「ハナシ。ハナシがある」
頭を引っ込めたカナブンが、すぐに玄関先へ降りてきた。まだ八時半なのに、もう起きていたらしい。
カナブンの姿をしげしげと眺めた。こんなだったっけ?こんなオンナだったっけ?
「髪、伸びたな」
「ああ……うん」
急に言葉が出なくなった。
いや、ダメだ。もう待ってるんだから。時間がないんだから。
「久しぶりに、中学の仲間で話そうってことになって」
「へぇ……」
「ちょっとでいいから、顔出して」
「いいよ」
アッサリと、カナブンは承諾した。家の中へ声を掛けると、俺と並んで歩き始めた。
「カナブンは、どーすんの?」
「大学」
「あ、そうだったな。こっから近いの?」
カナブンが首を横に振った。
「仙台の大学に行く」
「仙台!?国立!?」
そういえば成績は良かったことを思い出して言った。
カナブンが吹き出した。
「フツーの私大だよ」
そよ風が吹き抜けた。
笑ってるし、コイツ。なぜか焦る。
俺、知らん。こんなオンナ知らん。どうなっても知らん。
「アンタは?」
「俺はパソコンの専門学校」
「そう」
特に会話もなく、マクドナルドに着いた。何の警戒心もなく入って行くカナブンを見たら、急に罪悪感が湧いた。
「待って」
カナブンが足を止めた。
「上に克己とカノジョがいる」
カナブンの表情が固まった。
逃げられる!
慌てて言った。
「頼む!克己のカノジョがお前のこと気にしてんだよ。お前からハッキリ、関係ないって言ってやって!」
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