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拍手、そして歓声。三十分、二回のライヴは瞬く間に終了した。
「はぁ…すごかったな…」
あまりにも美しすぎた。華やかすぎた。やはり十年以上も会わなければ変わるものなのだ。ゆか姉はまったく別の世界へ行ってしまった。かないっこない。
「…そうだよ。そうだよな」
言い聞かせるように、そう、呟く。
―看板後、後片付けをしながらもマスターが興奮気味に言う。
「いやぁ、今日のライヴ良かったね~。どうだった、須崎君?」
「ええ、彼女昔から歌が好きでしたけど、まさかこんなになってるなんて」
「だよねー、良い歌ばっかりだったしねー。
…で、どう?挨拶ぐらいはしたのかい?」
「まさか、あんなに忙しそうなのに、そんな暇はありませんよ」
「なぁにぃ~?いかんぞぉ、そんな草食っぷりじゃあ!まったくぅ…
大丈夫、そう言うと思って用意しました!」
「…へ?」
「今夜のゲストです、どうぞぉっ!」
やたら芝居がかったその前フリとともに入ってきたのは―
「…こ、こんばんは…」
「…ゆか…姉ぇっ!? マスター、どうして…?」
「どぉーだい、びっくりしたろう?
俺とYU―KAさんのマネージャーとは昔からの友人同士でね、幼馴染がここで働いてるから、ってんで会えるように計らった訳さ。本来ならばありえないんだが、俺もそいつも君のお祖父さんや親父さんに世話になった者同士なもんだからね、ここらで借りを返しとくよ」
「そんな…マスター…」
ちょっとおせっかい焼きすぎな気もしなくもないけど…奇遇もいいとこだ、願ってもない偶然だ!
「さ、わかったら後片付けは俺に任せて。君等はゆっくり積もる話でもしてきな!」
「…って、ちょ、ちょっとマスター―!?」
第三章
「本当に…久しぶりだね、アキちゃん…」
僕の隣を歩くゆか姉が、懐かしそうに呟く。海へ続く、マリーナの桟橋を歩きながら。
頭上には初夏の星座が妍を競う。
「あ、あぁ…そうだね、十数年ぶりだね」
何とか、答えを返す。
やっぱりだ。思った通り、ぎこちない。それは十年以上の隙間を埋める話題が見つからないから、だけでは決してない。
「…どしたの?なんか大人しいね?久々なんだから、少しは嬉しそうにしなさいよぉ」
「い、いや嬉しいよ?ただ、あまりに突然だったから…」
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