第1章 堀ノ内駅のホームで

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第1章 堀ノ内駅のホームで

土岐美代子は、待っていた。 京急本線の、堀ノ内駅のホームに立っていた。 美代子は、 1番線、下りの浦賀方面に居た。 学生時代の親友、沖田たかしと 待ち合わせをしていたのだ。 もう、会わなくなってどの位だろう。 2年は立っただろうか。 美代子は、嬉しいような、また、 反面、不安な面持ちで待っていた。 その時、 向かい側のホームに、一際目立つ、 赤いワンピースを着た女性が現れた。 年の頃は、22、3といった所だろうか? その若い女性は、透き通るような 白い肌の、美しい人であった。 彼女と一緒にいるのは、 重そうなキャリーバッグを 手にした中年女性だった。 親子にしては、顔が似ていないし、 何か不自然だった。 その時、向かい側のホームに 列車が乗り入れようとしていた。 同時に、駅の構内にメロディーが流れ、 久しぶりに、聞いたその歌謡曲は、 美代子の心に切なく響いた.. 美代子の目の前を、 列車が通り抜けていく。 先程の、赤いワンピースの若い女性と、 荷物を持った中年女性の姿も消えていた。 「美代子、待ったかなぁ、ごめんね」 懐かしい声がして、 美代子は、声がする方へ振り向いた。 沖田たかしは、くしゃくしゃの笑顔をしていた。 あぁ、この笑顔だ.. 美代子もまた、にっこりと微笑み返し、 たかしの肩を、右手で小突いた。 「おっそいよおー!  相変わらず、女を待たせる男だなあっ」 たかしも、美代子の肩を、小突き返していた。 「ははっ、  変わってないなぁ、相変わらず色気の無いやつ..」 美代子は無言で歩き出した。 その背中を見て、たかしは言った。 「あ、ごめん、悪気は無かったんだ」 そう、美代子の後ろ姿に謝った。 突然、美代子は、振り向いて言った。 「ばあーか、ばあーか!  あははっ、  三郎が、車で待ってるから  早く行こうよ!」 美代子は、走り出した。 「おい、待てよ!  俺は、毎日残業続きで、クタクタなんだよ..  ちくしょー、まってくれぇ」 たかしは、美代子の後を追いかけた。 そう、わたしは、待てなかった.. たかしが告白してくれるのを。
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