第1章 堀ノ内駅のホームで

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観音崎京急ホテルの、 ガーデンチャペルは、素晴らしい環境にあった。 目前には、青々とした海原が広がり、 潮風が心地良く吹いていた。 典夫と和歌子を祝福するかのような快晴の中で、 花嫁の純白のウェディングドレスが、 いっそう、光り輝いて見えた。 バルーンを飛ばす、 クライマックスの演目のとき、 新郎の典夫が、声を掛けなければならなかった。 典夫は、緊張していた。 さん、にぃ、いち、 さん、にぃ、いち、 典夫は、心の中で、復唱し続けた。 本番の瞬間、典夫は、 いち、にぃ、さんっ、と大声を上げた。 しまったぁ、あれほど、練習をしたのに。 バカな俺.. 典夫は和歌子の顔を伺った。 和歌子は、嬉しそうに優しく笑っていた。 和歌子が笑顔でいてくれればそれでいい.. 典夫はホッとしていた。 ともあれ、バルーンは、無事に飛ばされた。 招待客たちも、全員が、空を見上げていた。 赤や、青、ピンク、 さまざまな色が、 交差しながら、高く、高く 風に乗って空を昇っていく. . 美代子は、たかしの顔を眺めた。 たかしは、変わっていなかった。 美代子は、この2年間の出来事が、 まるで何事も無かったかのような 錯覚に陥りそうだった。 たかしは、くったくの無い笑顔を美代子に向けた。 「美代子にも、幸運が訪れますように」 たかしは、いつだって、 わたしに優しかった。 わたしたちは、あの頃、毎日一緒に帰った。 一緒に勉強し、 映画に行き、美術館に行ったり 海に行ったり、山にも登ったっけ.. ほんとに、鈍感な男... 美代子は、無性に腹が立ってきた。 美代子は、自分のハンドバッグで、 たかしのお尻を、後ろから、はたいた。 「ナニするんだよぉ?いってえなぁ..」 たかしは、目を丸くして美代子を見た。 「ばあーか、ばあーかっ  わたしは、いつだって  幸せだっつーの!」 美代子は、そういうと、歩き出した。 「ちょっと、待ってくれよぉ、美代子ぉ」 たかしは、美代子の後を追った。 なんで、わたしを捕まえてくれなかったの? 元夫の柿平直人の結婚の申し出を、 相談した時、たかしに止めて欲しかった。
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