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観音崎京急ホテルの、
ガーデンチャペルは、素晴らしい環境にあった。
目前には、青々とした海原が広がり、
潮風が心地良く吹いていた。
典夫と和歌子を祝福するかのような快晴の中で、
花嫁の純白のウェディングドレスが、
いっそう、光り輝いて見えた。
バルーンを飛ばす、
クライマックスの演目のとき、
新郎の典夫が、声を掛けなければならなかった。
典夫は、緊張していた。
さん、にぃ、いち、
さん、にぃ、いち、
典夫は、心の中で、復唱し続けた。
本番の瞬間、典夫は、
いち、にぃ、さんっ、と大声を上げた。
しまったぁ、あれほど、練習をしたのに。
バカな俺..
典夫は和歌子の顔を伺った。
和歌子は、嬉しそうに優しく笑っていた。
和歌子が笑顔でいてくれればそれでいい..
典夫はホッとしていた。
ともあれ、バルーンは、無事に飛ばされた。
招待客たちも、全員が、空を見上げていた。
赤や、青、ピンク、
さまざまな色が、
交差しながら、高く、高く
風に乗って空を昇っていく. .
美代子は、たかしの顔を眺めた。
たかしは、変わっていなかった。
美代子は、この2年間の出来事が、
まるで何事も無かったかのような
錯覚に陥りそうだった。
たかしは、くったくの無い笑顔を美代子に向けた。
「美代子にも、幸運が訪れますように」
たかしは、いつだって、
わたしに優しかった。
わたしたちは、あの頃、毎日一緒に帰った。
一緒に勉強し、
映画に行き、美術館に行ったり
海に行ったり、山にも登ったっけ..
ほんとに、鈍感な男...
美代子は、無性に腹が立ってきた。
美代子は、自分のハンドバッグで、
たかしのお尻を、後ろから、はたいた。
「ナニするんだよぉ?いってえなぁ..」
たかしは、目を丸くして美代子を見た。
「ばあーか、ばあーかっ
わたしは、いつだって
幸せだっつーの!」
美代子は、そういうと、歩き出した。
「ちょっと、待ってくれよぉ、美代子ぉ」
たかしは、美代子の後を追った。
なんで、わたしを捕まえてくれなかったの?
元夫の柿平直人の結婚の申し出を、
相談した時、たかしに止めて欲しかった。
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