第2章 スレ違いの恋心

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第2章 スレ違いの恋心

披露宴開場を後にし、 堀ノ内駅まで、片岡三郎に、 車で送って貰ったふたりは、顔を見合わせた。 「俺ぇ、久しぶりに、美代子の実家に寄ってみたいなぁ」 たかしが、片手で頭をかきながら言った。 「いいよ」 美代子は、すかさず言った。 「お父さん、元気?」 「うん、とっても元気..うるさい位」 「牧男くん、まだ、実家に居るの?」 牧男は、美代子の弟だった。 「牧男も、文男も、家に居るよ..」 美代子は、長女で、年子の弟達がふたりいた。 母親は、病気で他界していた。 美代子は、弟達にとっては、姉であり、 母親がわりでもあった。 美代子が、柿平直人と離婚したとき、 父親の克男は、こう言った。 「別れて良かったじゃないか、  だいたい、子供を作れない身体なら、  事前に相談があって然るべきだ。  美代子は、騙されたんだ..」 克男は、頑固者だった。 美代子は、父親がそういう態度を 取るのが嫌だった。 美代子だって、柿平を嫌いになって 別れた訳では無かった。 精神的なショックが大きかったのだ。 いつまでも、自分に触れようとしない柿平を、 ただ、淡白なタイプなんだと 美代子は、思っていた。 わたしが、女性としての魅力に欠けるから.. そう、美代子は、思い悩んでいた。 あるとき、美代子が、自分の胸のうちを 打ち明けると、柿平は静かに語り出した。 「黙っていてゴメン..  美代子の事を、凄く愛してるのは本当なんだ。  このままじゃあ、ダメかな?  プラトニックのままで、いたいんだ..」 美代子は、心が張り裂けそうだった。 わたしは、わたし自身を、すべてを 愛して欲しかった。 美代子は、若かった。 若くて向上心に燃えていた。 たかしは、美代子の自宅に行く前に、 美代子の近所にある酒屋に寄り道した。 「こんにちはぁ、マサルくん、います?」 たかしは、店の奥に声を掛けた。 「やぁ、久しぶり.. あれぇ、美代ちゃんも一緒だねぇ」 マサルは、たかしと美代子の 中学の同級生だった。 「いい、お酒あるかなぁ、  これから美代子の家に行くんだ。  オヤジさんの好み分かるかなぁ?」 たかしは、照れながら言った。  
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