第2章 スレ違いの恋心

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美代子は、グレーのジャージに、 白のシャツに着替えをして、 鏡の中の自分を見た。 まだ、20代半ばの自分は、 若いはずであったが、 離婚を経験した事で明らかに 他の同年代の独身女性とは、 気持ちを共有出来なくなっていた。 まるで違う、 もう、昔には戻れない自分が そこに映っていた。 美代子が、台所に戻ると、 いつの間にか帰宅した父親とたかしが、 酒を酌み交わしていた。 「お父さん、呼んでくれたら良かったのに」 美代子は、呆れた顔で言った。 「イカの刺身、上手いぞ、たかしくんが  作ってくれたんだ、お前も頂きなさい」 父、克男は機嫌が良かった。 たかしも、もう頬があからんでいた。 「披露宴でさんざん飲んで来たんだから..」 美代子は、そう言うと、イカ刺しを箸でつまんだ。 「典夫と、和歌子、今頃、羽田空港ねぇ..」 美代子は、今度はゲソの天ぷらを食べた。 そして、今日の出来事を、父親に話して聞かせた。 たかしが、父親に差し入れた日本酒は もの凄いスピードで無くなって行った。 「あぁ、悔しいなぁ、美代子の婿が  たかしくんだったら良かったのになぁ」 克男は、かなり酔っていた。 「お父さん、止めてよ..」 美代子は、父を睨み付けていった。 「俺は、美代子が不憫でならないんだ。  あまりに可愛そうでは無いか?  そう思わんか?キミィ」 克男は、眼鏡をとって、目を擦り始めた。 「何で、何でぇ、結婚する前に言わないんだぁ..」 克男がこんなに乱れるのを、 美代子は、見たことが無かった。 「お父さん、座敷に横になった方が良いですよ」 たかしは、克男の肩をかついで、 奥の部屋に寝かし付けた。 その時、文男が帰ってきた。 「たかしさん、こんばんは、  お姉ちゃん、マキにぃは、彼女とデートだってぇ」 「そう、フミ、カレーあるよ」 「いらない、もう食べた」 文男は、携帯を見ながら階段を登って行った。 「ごめんねぇ、お父さんが失礼なこと言って..」 美代子は、たかしの顔を伺った。 でも、内心、美代子は嬉しかった。 自分が言いたかった胸の内を、 お父さんが吐き出してくれた。 父はわたしの味方をしてくれた。  
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