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美代子は、父が、自分の言いたいことを代わりに
言ってくれたので、なんだか胸のつかえが
取れた気がした。
それに、たかしとも、再会出来たじゃない..
悪いことばかりじゃない..
「一からやり直そうよ..」
たかしが言った。
「えっ」
美代子は、ほとんど聞き取れない位の
小さい声で言った。
今、たかしは、何て言ったのかしら?
美代子は、意味が良く分からなかった。
「俺は、美代子がひとりになってくれて
良かったと思ってる..」
たかしは、まだ、酔っぱらっているのだろうか?
美代子は、たかしの顔をじっと伺った。
たかしの目はテーブルを見つめていた。
たかしが、美代子の顔を見上げると、
美代子は、目に涙をいっぱい溜めていた。
その時だった。
弟の文男が、台所に入って来た。
「たかしさん、
姉ちゃんは、バツいちだけど、バージンなんだ。
だから、姉ちゃんは、心も身体も綺麗なままなんだ。
たかしさん、姉ちゃんをよろしくお願いします」
文男は、顔が見えない位に頭を下げていた。
座敷の向こうで、布団に入っていた父の克男は、
瞼を閉じていたが、もう目は覚めていた。
克男の閉じた目から、
涙が溢れ、頬を伝って、枕が濡れた。
美代子は、目に涙を浮かべながら、
立ち上がって、文男の頭を、コツンと小突いた。
「シツレイナヤツっ!
あははっ、あはははっ」
美代子は、思わず吹き出した。
たかしも苦笑した。
「いってえ..姉ちゃんのために言ったのにィ
ほんとは、たかしさんの事、
ずぅっと好きだったくせにっ」
文男は、口を尖らせて言った。
「うるさいわよっ、大人の話に入って来ないでよっ
だいたい、あたしがバージンだって
なぁんであんたにわかるのよっ」
美代子は、照れながら怒鳴っていた。
「うーん、お色気のレベルでわかる..」
文男は、ぶたれるのを覚悟し首をすくめた。
「うるさいっ、まて、フミっ」
美代子は、逃げる文男を追いかけた。
父の克男が、アクビをしながら台所に入って来た。
手には、焼酎のビンを下げている。
「飲み直そうか?たかしくん」
父は、ニヤッと笑っていた。
「いいですね」
と、たかしが笑顔で答えていた。
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