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第1章 運の尽きた中年男
若葉忠正は、途方に暮れていた。
昔、妻とふたりで来たことのある
三浦海岸を歩いていた。
朝早い時間帯で、海岸沿いは、
人は少ないが、
目の前を、犬が走って通りすぎた。
その白い犬はまだ、子供のようで、
嬉しそうに尻尾を振っていた。
目の周りに黒の縞模様があった。
リードが着いているので、
恐らく迷子になってるのだろう。
後ろから、中年の男性が駆け寄ったが、
白い犬は、楽しそうに、
また、走り去っていった。
男性は、後から追いかけていく..
若葉忠正は、疲れていた。
浜に座っていた若葉の前を、
若い男女が歩いて行く姿を見て
若葉は、遠い昔を思い出していた。
目の前を通る若い女性は、
水色のワンピースを着ており、
まだ、高校生位だろうか?
はしゃぎながら、裸足で歩いている。
その後を、たぶん、彼女のサンダルなのだろう。
若い男性が、女ものの、サンダルを片手に、
もう片方で、自分のくつを持ち、
ゆっくりと歩いている..
僕たちも、昔はこんなふうに仲が良かったのだ。
若葉忠正は、仕事を失い、
妻に逃げられ、
家をも失っていた。
若葉は、どうしてこんな事になったのだろう?
そう、思っていたが、
今は、ショックが大きすぎて、
深く考える事が出来なかった。
さっきから頭が痛い...
若葉は、片手でこめかみのあたりを
押さえていた。
だんだんと、頭は、重くなった。
がんがんと、まるで
ハンマーで殴られてるみたいだ。
いくら、我慢強い俺でも、
あぁ、もう、無理かもしれない..
若葉は、次第に身体を丸くして、
瞼を閉じて、唇を固く閉じていた。
ついには、横になり、そのまま、
深い眠りについてしまった。
遠くで、潮の音がする。
ざざぁーん..
ざざぁーん..
若葉の目の前には、草原が広がっていた。
美しいその緑色に輝く海原を見て、
若葉は、心が澄み渡った。
何て綺麗なんだ。
自然の美しさに勝るものは無い。
若葉は、常々、そう思っていた。
若葉は、もともと、写真家を目指していた。
東京に憧れて、田舎から上京し、
カメラマンになるのを夢見ながら、
若葉は、昼間は仕事をしながら、
夜学に通っていた。
そんな時、日斗美と知り合ったのだ。
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