第2章 中年男と女子高生

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水族館の中は、涼しく、意外と空いていた。 ふたりは、館内をひととうり見て歩き、 いわしの群れの水槽の前で、咲子は足を止めた。 「わぁ..凄い、いっぱい..」 水槽の丸みに、咲子は手を当ててじっと見詰めた。 いわしは、同じ方向へ群れ為し、 ぐるっと大群を作り、勢い良く回りながら泳いでいた。 咲子の右隣に、小学生の男の子が居て、 やはり、咲子と同じように、じっと水槽を見ている。 やがて、その男の子の母親がやって来て 男の子は、母親と連れだって、何処かへ行った。 若葉は、いわしの群れを見ながら話だした。 「いわしは、びっくりした時とか、  敵に遭遇した時に、自分の鱗をぱっと、  体から一斉に解き放って、目眩ましをするんだ。  そうすると、キラキラした鱗で、姿が見えにくくなるだろう?  群れを為したいわしが一斉に、鱗を放ったら、  きっと、きれいだろうなぁ?」 「ふぅーん、そうなんだぁ」 咲子は、目を大きく見上げていた。 「だからね、買ってきた時に、  大概のいわしは、すでに鱗が落ちてるんだけど、  たまにね、凄い鱗がついたままのが居るんだ」 「ふうーん?」 「いわしにも、鈍い子がいるのかもね?」 若葉は、微笑んで咲子を見た。 「うん、鈍感なのかぁ、  でも、びっくりする暇が無い位、早く捕まっちゃったかもよ..」 咲子は、若葉の方を振り返った。 「そうだな、そうかもしれないなぁ..」 若葉は、再び水槽を見上げ、咲子も顔を上げた。 幻想的とも見える、その群れの水流の渦の形は いわしの力強さと、生命力に満ちていた。 水族館の扉を抜けると、 咲子は、若葉の顔を伺いながら言った。 「あのね?もう一ヶ所行きたい所があるんです..」 咲子は、若葉を上目使いで見上げた。 若葉は、溜め息をついた。 ははは..今度は何なのかな? とんだライオン女子だ.. 今は、しおらしくしているが、 今度は、どこへ俺を連れて行こうと て、いうか、どうするんだ、俺は.. 日斗美の実家になんて、行ける訳が無いのに そうだ、いっそ 遊びほうけて、忘れてくれればいいのだ.. 「坂本龍馬の像が見たい」 ライオン女子は、笑顔で言った。 立会川なら、一駅先だ。良かった..
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