第2章 中年男と女子高生

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「だから、龍馬像を見に行く前に、  奥さんの実家に行こうっ、どっちィ?」 ライオン女子が歯を向いて、顎で指図した。 「どどどっちだったかなぁ?  たぶん、そこの道の..方角..」 若葉は、真夏の太陽の日差しを、睨み付けた。 額には汗が滲んだ。 「ふぅーん..」 咲子は、若葉の顔をじっと見ると、 急に、ニヤッと笑った。 「おじさん、なんか楽しいねっ?ふふっ」 「らん、らん、らん..」 咲子は、昭和時代の、スキップをした。 スキップをするたび、 咲子の水色のワンピースの裾が揺れた。 ライオン女子は、ダンスも出来るし、 スキップも..自由自在だった。 楽しいね?だとぉ.. まったく、おとなをからかっているんだろうか.. 俺も、俺だ 嫌なら嫌だと、はっきり言えばいいじゃあないか 断ろう!今すぐ帰ろう.. どこへ?俺には帰る家が無い あぁ、もういっかぁ.. 訪ねて見ようかな? もう、俺に失うものなんかないんだ。 何を恐れているんだろう?俺は.. 落ちぶれた姿を、世間の人に知れるのが怖いのか.. それとも、日斗美に合わす顔が無いからか 「その路地に入って、右側の電柱の先の、一戸建ての家だよ..」 「星河って、書いてある..」 咲子は、玄関のインターホンに向かった。 「ちょっと..ちょっと、待ってくれ」 若葉は、小さい声で、囁いていた。 咲子が、若葉の方を振り向くと、 若葉は、電柱の影から、手を繋いでいた。 「バカなんじゃないの、オッサン..」 咲子は、口を開け、呆れた顔で、電柱の横に駆け寄った。 「す、すまない、やっぱり無理だよ  俺は帰る..いや、ここから..」 「逃げるんだ.. いいよ、逃げたければ、でも..アタシは」 咲子は、そう言うと、くるっと星河家の方へ向いた。 とっさに、若葉は、咲子の手を引っ張った。 「ちょ、待ってくれ!」 「あらあ?忠正さんじゃあない?」 若葉の後ろから声がした。 「あぁっ、お義母さんっ、こ、こんにちは」 若葉忠正は、すっとんきょうな声を出した。 すると咲子が喋り出した。 「初めまして、私、姪の咲子って言います」 咲子は、笑顔で挨拶を交わした。 「あぁ、まぁ、可愛らしいこと」
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