第2章 中年男と女子高生

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め、め、姪って言ったよね? どうするんだライオン女子.. 「どうぞ、中でお待ち下さいな  日斗美は、晩御飯までには来るって言ってますのよ?」 日斗美の母、星河昌美は、上品な夏物の、着物を着ていた。 星河昌美は、立会川駅付近で、小料理屋を経営していた。 今日は、店は営業していないのだろう.. 「あ、いいんです。  姪が、観光をしたいと言ってるので  これで失礼します、ちょっと、寄っただけですし、ははは..」 若葉は、咲子の手を強く引っ張り、その場を立ち去った。 「そう、残念ね、またいらしてね、ええと」 「咲子でぇーす!さよならっ、おばさま」 咲子は、笑顔で手を振っていた。 若葉は、溜め息を付きながら、足早に、駅に向かって歩いた。 日斗美は、やはり、実家に帰るつもりだったのだ。 この時、若葉忠正は、知らなかった。 若葉の妻の日斗美もまた、途方に暮れ、 逃げてしまった自分を悔いて、三浦海岸に来ていた事を。 たった一度きりの、ふたりの思い出の場所に、 日斗美もまた、自然と足を向けていたのだった。 「坂本龍馬、早く見に行こうよっ」 咲子は、明るく声を掛け、勢い良く喋り続けた。 「奥さんの居所がはっきりしたし、  きちんとしてから、会いに来ればいいじゃん?」 咲子は、若葉を追い越し振り向いた。 「うん..」 若葉は、真面目な顔で頷いた。 そうだな、一門無しで迎えに行くわけには行かないな.. 少なくとも、仕事と住まいをきちんとしなければ.. 日斗美の母のやっかいになる訳には行かないのだ。 ライオン女子の言うことは、案外、的を得ている.. 「くらっ、暗すぎるよ、顔.. そんな顔してるとぉ、運が逃げちゃうよ」 咲子は、さっき、電車の中で、 若葉の前で自分が泣いたことは、すっかり忘れているようだった。 ははは..こう言う所が子供なんだよなぁ.. 若葉は、ほくそ笑みを浮かべながら咲子を見やった。 「アタシのおかげで、元気になったでしょ」 咲子は、若かった。 そして自信に満ちていた。 「まったくその通りです、いや、メンボク無い..」 若葉は、正直な言葉がついて出た。 「メンボクナイだって..ウケル、きゃははっ」 咲子は、良く笑い、良く喋っていた。
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