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ふたりは、立会川駅から、
京急蒲田駅で、乗り換え
堀ノ内駅に着いた。
堀ノ内から、京急久里浜線の
三崎口行きに乗れば、
あともう少しで、三浦海岸駅に着く..
「もう少しで着くね?」
咲子は、電車の中で眠っていたせいか
元気を取り戻していた。
「こんな事を言って、アレなんだが..」
「なあに?」
咲子は、電車の窓から、
若葉の顔へ視線を移した。
「お弁当が非常に美味しかったので
お母さんにお礼を言わないといけないな」
そう、若葉が言うや否や、
「あの、お弁当、ア、タ、シ、が作ったの」
咲子は、自慢気に、抑揚を付けて言い放った。
「はぁ?君がかい?...」
若葉は、目を丸くした。
あのだし巻き玉子は、なかなかの逸品だ。
それに、焼き魚も、お頭付きだし..
自分で調理したのだろうか..
若葉は、「きゃはは、ウケル..」が口癖の、
このライオン女子が、
あの弁当を作ったとは、到底考えられなかった。
「だって、お父さんが、居なくなってから
アタシ、ずっと、まかないの
炊き出しを手伝ってるんだもん..」
咲子は、あどけない顔を若葉に向けた。
「いくつから手伝ってるんだい?」
若葉は、驚いて咲子に思わず尋ねた。
「10歳から..ずっと」
咲子は、うつ向き加減に答えていた。
「へえぇ?10歳から、偉いねぇっ?
いや、失礼..そのぉ、素晴らしいね
あのお弁当は、見事だよ..」
若葉は、心から感動していた。
若葉は、料理だけは、
少しは自信があったのだ。
時折、日斗美に、
魚をさばいて、刺身を作って
食べさせたりしていた。
日斗美も、また、料理上手であった。
日斗美の母、星河昌美が、
小料理屋の女将をやっており、
料理の腕前は、母親から受け継がれていた。
日斗美の父親は、日斗美が成人してから、
病気で亡くなっている。
それからは、小料理屋「星河」の暖簾は、
母、昌美が、守って来ているのだ。
「君は..咲子ちゃんは、確か、
絵を学びに大学に行きたいって言ってたよね?」
「うん、そうなの」
咲子は、若葉の目を真っ直ぐに見て言った。
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