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白いマルチーズは、老犬のようだった。
その犬は、
若葉を見上げると、
首を、くくっと、横に曲げた。
「あなた、だれ?」
まるで、そんな声が聞こえて来そうだ。
「もうっ、いいっ、
どうして分かってくれないの?」
咲子が、大声をあげ、取り乱した様子で戻って来た。
白い犬は、咲子の足もとへ身を寄せた。
二匹の猫たちは、棚の上に飛び上がった。
そこへ、台風のように、咲子の母親が若葉の前に姿を現した。
城谷菊子は、髪を後ろに束ね、
前掛けを掛けたままの姿だった。
「初めまして、娘がお世話になったそうで、
お礼を申し上げます...
わたくし、咲子の母の、城谷菊子と申します」
「いいえ、お嬢様に、お世話になったのは、私の方です。
本当に感謝申し上げます..
私は若葉忠正と言います。
古い名刺で、申し訳ありませんが」
若葉は、城谷菊子の顔が
強ばっているのを、見て取った。
「単刀直入に、申し上げますわ、
宿泊は、お断りいたします」
城谷菊子は、まるで、包丁で、
切って捨てるような物言いだった。
「お母さん!酷い...」
咲子は、目に涙を一杯溜めていた。
「貴女は、いつもそうよ!
海岸で、段ボールに入った捨て猫を
拾ってきたり..
友達が困ってるからってぇ、
老犬を貰って来ちゃったり..」
菊子の声は、だんだんと高く為った。
「あげくの果てはぁ?
宿無しの中年男を、海岸で見つけたってぇのは、
どういう事なのよっ!」
菊子は、興奮して、
最後の言葉が裏返ってしまった。
「くっ、く..」
最初に笑ったのは、若葉だった。
まさか、この歳になって、
犬や、猫と同じ扱いをされ、
いや、人間はお断りなのだから、
俺は、動物以下に扱われた、
と言う事だな..
全く、我ながら、呆れた話だ..
菊子さんの言う通りだ..
咲子も、半べそをかきながら、
苦笑した、その時、
泊まり客の、高齢の白髪頭の男性がひとり、
入り口に立っているのに、
女将の菊子も、咲子も、若葉忠正も、
一同に気が付いた。
「あとが、つかえてますので、
先にお入り下さい」
その白髪の男性は、若葉に中に入るよう、促した。
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