第1章 運の尽きた中年男

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妻の日斗美の部屋に転がり込んだ自分。 貧乏で、どうしようもないダメ男だった。 でも、年に一回位は、いいとこ見せようと思い、 奮発して、横浜の中華街に、 日斗美を連れて行った事があった。 あの日は雪が降っていたんだ... 中華街へ行き、目的の店の前で、 俺は、ふと、不安になり、財布を確認したんだ。 「無いっ!一万円札が無いっ!」 俺は、鞄の中から、上着のポケットから、 探したけれど、一万円札は出て来なかった。 「ごめんよ、日斗美、無くしちゃったみたいなんだ」 「いいよ、でも、せっかく来たんだから  あたし、肉マン食べたいな!  ねぇ、歩きながら、肉マン食べようよ」 日斗美は、優しく笑いながら、 肉マンを売ってる店の前で、行列に並んだ。 俺は、思い出そうと必死だった。 どこで、無くしたんだろう.. あぁ、そうだった。 日斗美と待ち合わせた公園で、 俺は、あそこで、財布を取りだし 中身を確認したんだ。 まさか、あのとき、荷物が多くて 物を入れ換えたから.. あのとき、雪なのに、 学生らの男女が何人か集まって来たから、 俺は、慌てて鞄を閉めたんだった.. 慌てなければ良かったんだ。 最初にあの場所に居たのは 俺だったんだから、 遠慮することは無かったのに。 若葉忠正は、つくづく、運の薄い男だった。 それに、オーラも薄いようで、 そこに居るのに、 誰にも気づかれない.. そんな事が良くあったのだ。 行列に並んで、ようやく 肉マンを手にした日斗美は、 嬉しそうににっこり微笑んだ。 日斗美は、本当に気立ての良い娘だった。 俺なんかには、勿体無い。 良く、友人からも言われていた。 「どうして、あんな可愛い子が、若葉なんかと..」 良くそう噂されていた。 若葉忠正は、日斗美と付き合うようになり、 以前より、注目を浴びるようになっていた。 日斗美のおかげだったのに。 俺は、錯覚していた.. 自分の力が延びた訳では無かったんだ。 すべては、日斗美の縁の下の力が あってこその自分だったのに。 俺は、もっと、日斗美に感謝すべきだった。 いつも、感謝はしていたのだ。 でも、俺はそれをうまく言葉に出来なかった。 どうしょうもない、ダメ男なんだ。
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