3人が本棚に入れています
本棚に追加
「アタシ、さくこっていうの、城谷咲子」
咲子は、お弁当のタコのウインナーだけ摘まんで、
若葉忠正に、弁当を渡した。
「全部、食べていいよ」
若葉は、申し訳なさそうにしたが、
咲子の弁当を頂く事にした。
まさか、こんなことになるなんて..
俺も、落ちぶれたものだ。
とにかく、絶望していても、仕方ない。
かといって、行くあてもなければ、
いい考えも思いつかなかった。
気がついたら、
日斗美との思い出の、海岸に来ていたのだ。
「学校は、この時期は夏休みでしょう?
せっかくお弁当を持って来たのに、
僕が食べてしまって申し訳無い..」
若葉忠正は、口調が丁寧だった。
「いいの、お母さんと喧嘩して、出てきちゃったの」
城谷咲子は、さらっと言った。
弁当持参で、家出するってぇ、
ははは、冗談を言ってるのかな?
まだ、幼い顔つきだし..
若葉忠正は、心の中で呟いた。
若葉にも、妹がいた。
若葉の両親はすでに他界していて、
妹は、早くに結婚し、新潟に住んでいる。
兄として、妹に頼る訳にはいかなかかった。
日斗美は、今頃どうしただろう、実家に戻っているのだろうか?
「おじさん、若葉さん、って言ったっけ?
おじさんの家族は?」
咲子は、鞄から、あんパンを取り出してかじった。
「妻がいたんだけど、行方が分からないんだ..
仕事も、家も、無くなってしまってね..
取り合えず、安い宿でも見つけないと..」
若葉が、最後まで話終わらないうちに、咲子が喋りだした。
「安い宿ならあるよ、うち、民宿やってるの」
咲子は、真面目な顔で言った。
「そ、そうなのかい?
泊まらせて貰えないかな?そのぉ..」
若葉は、ぱっと顔色が明るくなった。
「いいけど、条件があるの..」
咲子は、ニヤっと笑った。
な、なんなんだろう、
俺の身の上を話しても、対してびっくりもせず、
だいたい、愛情たっぷりの弁当を持って、
家出とか言って、この娘、信用出来るのだろうか?
「おじさんの、逃げた奥さんの、実家ってどこ?」
咲子は、高部の顔をじっと見た。
「えっ、言わないといけないの、
お、大森海岸だけど..」
若葉忠正は、冷や汗が出てきた。
最初のコメントを投稿しよう!