第2章 中年男と女子高生

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「大森海岸..」 咲子は、ちょっと顔を上げて遠くを見た。 「そこに行こ..」 咲子は、固い口調で言い切り、立ち上がった。 「はあぁ?ちょ、ちょっと待ってくれ」 若葉忠正は、目を見開いて咲子を見た。 「お弁当、食べさせてあげたでしょう?  それに、格安の値段で、  うちの民宿に泊まりたいんじゃあないの?」 咲子は、勝ち誇ったように若葉を見下ろした。 「は、はい、泊まらして欲しいです、  お弁当も美味しかったです.. あぁ、でもお、それと、これとはぁ..」 若葉は、懇願するように咲子を見上げた。 「別ではありません、悪いようにはしないから、  オッサン、行こうよ、は、や、く」 咲子は、やはり、ライオン女子だった。 強いリーダーシップを発揮した。 若葉は、仕方なく、力無く立ち上がった。 まぁ、いいか、会えるわけないし、 最悪、家を忘れたってことにして、 途中でうやむやにすればいいさ、 こんな赤の他人の事だもの、  すぐに飽きるに決まっている.. 若葉は、少し心が軽くなった。 若葉は、立ち上がった瞬間、咲子と目があった。 なんだか、自分の胸の内を見透かされたような気がして、 咳払いをしていた。 咲子は、目の前を、ぴょん、ぴょん跳ねるように、 スキップをしていた。 「らん、らん、らん」 その後ろ姿を見ながら、若葉は思った。 日斗美は、一度だけ、妊娠した事があった。 もう遠い昔の事だった。 5ヶ月の時に、流産をしてしまったので、 日斗美の悲しみは、中々癒える事は無かった。 子供が大きく育ってからの流産だったため、 炎症を起こしてしまい、日斗美は高熱を出した。 その後、日斗美は体調をくずし、 それからは、子宝に恵まれる機会を失った。 あの子が生きていれば、 もう、咲子位の年齢だろうか? 若葉は、ふとそんな事を思い出していた。 ふたりは、京急久里浜線に乗り、 三浦海岸から、堀ノ内駅に出た。 堀ノ内駅から、京急本線へ乗り換え、上りホームへ向かった。 その時、列車の乗り入れの際に、 懐かしい歌謡曲のメロディが流れた。 「懐かしいなぁ、これ、  かもめが翔んだ日、だよな..確か」 若葉は、呟いた。
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