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人が死ぬ事が当たり前の世界で生きる僕には、気付けなかった。それが嫌だから、もうやめようとしているのに。
「手に入れた場所を知って、どうするの?」
彼に問われて、僕は唇を噛む。
「この件に適切な人に話して、組織で解決に導くよ」
僕の言っている事は彼には正確には伝わらないだろう。おおかた警察にでも行くんだろうと思ってくれれば、それでいい。
彼にとって、僕がこの話を誰にするのかは重要ではないから。
「うん、そうして」
彼の表情に爽やかな笑みが戻った。
「やっぱり君は、いいやつだよね」
戻った笑みはやはり爽やかで、傾きだした太陽を焦がし、中庭の空気を色濃くしていく。
「からになった瓶を、埋めてほしいんだ」
彼は瓶の蓋をはずし、中身を手のひらに落とした。
「こんな方法しかなかったけど、ぼくが強くなる為には必要だった」
方法は他にもあったなんて、誰が言えるものか。
「僕が僕であるために、大事にしてきた物なんだ」
小さな粒を口へほおる。
「きっと最後の二粒は、僕の為に残っていたんだね」
二粒のうちの一粒を、分け合うなんて事は考えもしなかったらしい。
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