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ベンチに座ったまま、彼はペットボトルの中身を一滴残さず飲み込んだ。
そして、いつもの笑顔を僕に向ける。
「なくしちゃ、ダメだよ。大事なものは」
そう言った彼は、僕の返事を待たずに眠りに落ちた。二度と目を覚ます事はなく、でも安らかな眠りと言えた。
「こんなの、僕がやるより、やるせない……」
自らの手で彼の命を奪ったのなら、僕の心はこんなにも複雑じゃなかったのに。
彼の手で、彼の意思で、終えてしまった命は、僕には背負えない。
もしかしたらそれが彼のねらいだったのかもしれないけど。
彼が願っていた通り、からになった瓶は中庭に埋めた。彼が用意した軍手で瓶の指紋を拭き取り、スコップで穴を掘る。
僕はポケットに入れておいた物を取り出した。ここへ来る前に拾った、石ころだ。それを瓶に入れてしっかり蓋をする。
そのまま、埋めてやった。
作業が終わるとスコップを洗い流し、用具室に返す。軍手は中庭で燃やして灰にした。
ベンチに寄りかかって眠る彼の隣に、僕は腰かけた。
「君という、大事な友人をなくした僕は、どうすればいいの」
これから夏が始まると思うと、憂鬱で仕方なかった。
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