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仕方なく手ぶらで中庭へ向かう。手ぶらとは言っても学校指定のカバンは肩にかけているし、プラスチックの下敷きは相変わらずパタパタと僕の顔を扇いでいる。
……その辺の石ころでも持っていくか。
適当に辺りを見回すと、新緑が鮮やかな葉が太陽の光を遮り、木漏れ日を作っている木があった。その根本にちょうど手頃な石ころがある。
手に取り眺めても、なんの変鉄もなく、特に重いわけでも、逆に軽いわけでもない、普通の、ありふれた石ころだ。
軽く表面についた砂を指でこすって落としてやっても、突然光だしたり、熱を発したり、「お呼びですか、ご主人様ー」なんて魔神が出てきたりもしない。
でも、なぜか、この石ころを手放すのが嫌だった。
手に取り、触れれば触れるほど、眺めて見つめて透かしてみれば見るほど、なんだか手放しがたいものだった。
色も形も、その辺に転がる石ころなのに。木漏れ日が揺れる地面にも、同じような石ころはもっとたくさんあるのに。
今、僕が手に取った、この石ころでなければならないと、そう決まっていたようだった。
まぁ、さっさと済ませて帰りたかっただけかもしれないけど。
石ころだし。
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