大事なものを探そう

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中庭へ行くと、彼の背中がベンチに座っていた。足を交互に揺らし肩がつられて揺れている。 僕は思わずその背中を見つめ、歩みを進めた。足音を消し、呼吸は細く短く。衣擦れの音は風に消され、僕は風下から彼の背後に近寄った。 「あ、しまった」 「わあぁ! びっくりしたっ」 右のポケットに指先が入っているのを認識して、僕は立ち止まった。僕の声に驚いた彼が振り返り、はにかみながら「驚かせないでよー」と言う。 ついうっかり気配を消して、最新のナイフの切れ味を確かめようとしてしまったなんて言えないから、僕は適当に笑って「ごめん」と頭をかく。 それからベンチを回り込み、彼の隣に座った。 夏の暑い日差しは、このベンチには完全には届かず、校舎の壁によってできた影の中を通る風は、ほんの少し夏の暑さを和らげてくれた。 さわさわと地面で雑草が擦れ、ざわざわと頭上の木々が葉を揺らす。冷たい飲み物でもあれば、完璧なのに。 「待ってたよー」 彼は今吹いている風より爽やかに笑い、涼やかに言った。 「他にも数人声をかけたんだけど、来てくれたのは君だけだね」 バックレてもよかったのか……。
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