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プリントを見れば思い出すだろうか、そう思いながらプリントをカバンから出そうとするのと同時に、彼がポケットから何かを取り出した。
反射的に僕はベンチから飛び退く。なんの反射だと問われても、はっきりとは答えられないが、なにかすごく嫌なものが身近にあると感じたから。僕の行動を見て驚いた彼の顔を見ながら、僕も驚いていた。
遅ればせながら、僕のカバンが地面に落ちる。中身が滑るように出てきて問題集やノートの角が生えた。
「あ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」
そう謝りながらも彼の手には、嫌なものが握られたままで、少し敏感になった僕は二度とこのベンチに、彼の隣には座れないなと感じていた。
彼の視線が、僕から手元へ移る。見ているのは小さな瓶だ。さっきまでの爽やかな微笑みや、太陽も焦がれる笑顔はすっかり影を潜め、ぼうっと表情も感情も消えていた。
「これは、こんな小さな一粒で、人間はもちろん、大きな象も眠らせてしまえる薬なんだ」
象が眠る程度なら、人間はたまったものではない影響がありそうだと、うかがえた。
彼が晴れ渡る空に透かした瓶の中には確かに、小豆程度の粒が入っていた。
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