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「どうですか?」
手直しされた花がゆっくりと姿を見せる。
上出来にはほど遠いが菖蒲らしい素直さと自然の風情が出ていた。
「いいでしょう」
私の一言で菖蒲の肩から力が抜ける。安堵と嬉しさが折り混ざった、柔らかい笑みを見せた。
「この花は時雨様のようですね。とってもお似合いです」
まっすぐに伸びた茎の上に、前に垂れ下がる大きな花弁。何よりも目を惹くのは花弁の深い藍色であろう。
「……。どうしてそう思うのですか?」
菖蒲のお喋りに私が付き合うことは珍しかった。だから菖蒲は、理由を訊ねた私を不思議そうに見ていたが、すぐに顔を綻ばせ楽しげに声を弾ませる。
「時雨様はいつも姿勢が良く、背筋をまっすぐされています。それに、この花のように清楚でとても綺麗です」
花と私を交互に眺めながら、菖蒲は素直な思いを口にする。
間接照明の柔らかい光に浮かび上がる菖蒲と、その前で優雅に花弁を広げる藍色の花を一枚の絵として眺めていた私は、虚ろに答えていた。
「そうですね」
私の活けた花を月見の間に飾る菖蒲がこう言った。
「時雨様、この花の名前はまだ聞いておりませんでした。なんというのですか?」
菖蒲の活けた花を両手に抱え、自室に戻ろうとしていた私は、菖蒲に視線を向けるだけでその問いに答えを返さなかった。
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