夕暮れに待つ

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 笑止千万な話だった。『両家子息の縁談』などという言葉は日本に存在しない。そんなこと出来るはずがなかった。  しかし由緒正しい旧摂家の方々は頭の中身が柔軟らしく、「結婚は紙切れで保証されるものではない、繋がっているという事実が重要なのだ」等と都合のいい言葉を並べた。両親は『両家の繋がりを深めたい』なんていう、今では時代錯誤な言葉に惑わされて二つ返事で承諾したようだ。 「とは言っても菖蒲はまだ15歳で、ちょっと教養に欠けるといいますか、今のまま輿入れというのはこちらの家名に傷をつけかねませんので……」  菖蒲の父親は遠回しな言い方をしたが、興奮しきりの両親は「そんな滅相もない!」と恐縮していた。 「具体的なお話はこれからゆっくり詰めて行くとして、お願いばかりで申し訳ないのですが、この菖蒲にこちらの作法を施してやってはくれませんでしょうか?」 「あぁ、構いませんよ。私どもは喜んでお引き受け致します」 「そうですか。それは有り難い。では……」 「ちょっと待ってください!」  勝手に話が纏まりかけたとき、私は咄嗟に叫んでいた。  両親が決めたことは絶対だ。ましてや相手は旧摂家の血筋だ。私が非を唱えても、世間一般では正しい意見を主張しても覆る余地はなかった。だから私は、ある条件を出した―――。
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