722人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、お兄ちゃん」
そう、兄には言っておこう。
「ん?」
この時の兄の表情にはまだ、余裕があった。
「私、たぶん、今、間借りしているマンションを出ることになる。家主さんに二人目が生まれるし、今まで学生だったから、格安で泊めてもらってた。いつまでもそれに甘えていてはいけないって思って・・・・・・」
小野と一緒と言おうとして、兄がそれを遮った。
「そうか、じゃ、ここへ戻ってくるんだな」
安心したかのように言った。
それが当然のことだという強い口調だった。
思わず友香は言葉に詰まった。
兄がそれを意外そうに見ていた。
「違うのか」
一瞬戸惑ったが、思い切って言った。
「小野くんが就職するから、一緒に住むの。アパート、探す」
にこやかだった兄の顔が今までにないほど怖い顔に変わった。
そして厳しい声を出した。
「結婚していない娘が男と一緒に住むというのかっ」
兄が怒っていた。
いつも友香の味方だったやさしい兄が、怖い顔をして睨んでいた。
友香もその兄の行動に煽られて、激情する。
他人になら、友香もその感情は抑えていただろう。
しかし、信頼している兄、親しい仲の兄に対しては取り繕うほどの意識はなかった。
友香と兄とのにらみ合いになった。
なぜ、今になって二人のことを反対するんだろう。
小野は井上との傷心から抜け出せた大好きな人なのに。
兄だって、結婚前に沙織さんと海外旅行へも行ったり、外泊していた。
それは別なのか。
様々な怒りがいつもの友香と違う思考を生み出していた。
今の友香は小野との同棲に反対する敵として兄を見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!