友香の実家

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「ね、お兄ちゃん」  そう、兄には言っておこう。 「ん?」  この時の兄の表情にはまだ、余裕があった。 「私、たぶん、今、間借りしているマンションを出ることになる。家主さんに二人目が生まれるし、今まで学生だったから、格安で泊めてもらってた。いつまでもそれに甘えていてはいけないって思って・・・・・・」  小野と一緒と言おうとして、兄がそれを遮った。 「そうか、じゃ、ここへ戻ってくるんだな」  安心したかのように言った。  それが当然のことだという強い口調だった。  思わず友香は言葉に詰まった。  兄がそれを意外そうに見ていた。 「違うのか」  一瞬戸惑ったが、思い切って言った。 「小野くんが就職するから、一緒に住むの。アパート、探す」  にこやかだった兄の顔が今までにないほど怖い顔に変わった。  そして厳しい声を出した。 「結婚していない娘が男と一緒に住むというのかっ」  兄が怒っていた。  いつも友香の味方だったやさしい兄が、怖い顔をして睨んでいた。  友香もその兄の行動に煽られて、激情する。  他人になら、友香もその感情は抑えていただろう。  しかし、信頼している兄、親しい仲の兄に対しては取り繕うほどの意識はなかった。  友香と兄とのにらみ合いになった。  なぜ、今になって二人のことを反対するんだろう。  小野は井上との傷心から抜け出せた大好きな人なのに。  兄だって、結婚前に沙織さんと海外旅行へも行ったり、外泊していた。  それは別なのか。  様々な怒りがいつもの友香と違う思考を生み出していた。  今の友香は小野との同棲に反対する敵として兄を見ていた。
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