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井上には悪いが、その後、友香は一人でホテルを出た。
もう一緒にいられない。
井上は何も言わなかったが、不満そうだった。
井上にはもう会わない、そう決めた。
それどころか、男性恐怖症になりそうだった。
後日、井上からメールがくる。
《もう別れよう。今までありがとう》
友香も最後に何か言いたかった。
電話をした。
「ごめんね。ホテルでのこと。あんなに私のためにしてくれたのに」
パニックを起こしたことを謝りたかった。
《もういいよ。過ぎたことだし》
今までどうもありがとうと言って、切るつもりだった。
けど、井上の言葉がつづいていた。
《あの時、友香ちゃん、なんではっきりと嫌だって言ってくれなかったんだろうって思ってた》
《そういうふうに言いたいことをはっきり言わない友香ちゃんにずっと不満を持ってたんだ》
《そういうとこ、嫌だった。それにあのホテルと食事代、母を拝み倒して借りたお金。まさかあんなふうに拒否されるなんてね。でももう忘れる。元気でね》
ずいぶんはっきりと辛辣なことを言われていた。
友香が今まで井上に、はっきり言わなかったのは、そういう女性が嫌だといつも言っていたからだ。
それにホテルのことは、何も知らされずに呼び出されただけのこと。
勝手にやり直すためにホテルの部屋を借りていた。
泊まるって最初からわかっていたら、きっと断っていただろう。
いつも井上は言いたいことだけ言って去る。
腹には何もないことがわかっているけど、こうはっきり言われると傷ついた。
こうして井上と友香のつきあいは終わりを告げる。
しかし、井上がテレビで活躍をするようになって、まわりは友香を放っておいてはくれない。
井上と別れてから、数か月がたっても他の人たちは友香に嫉妬していた。
二人が別れたことを喜び、友香が悪女だったという噂がたっていた。
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