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何だろう、この人は。
初対面のはずなのに。
その言い方も完全に友香のことを上から目線で、いじってくる。
「あのう、悪いんですけど、私のこと、お前って呼ぶのはやめていただけませんか」
友香はそう言って、ちょっぴりビールを飲んで喉を潤した。
まだ、皆が有名人の元カノの友香に、いろいろと話を聞きたがっていた。
やはり、来るんじゃなかったと友香が顔を曇らせた。
突然、小野が厳しい声を出した。
「もうよせよ。誰だって別れた人の事をいろいろ聞かれるのは嫌だろう。オレ達にとっては井上さんはイケメン俳優だけど、如月さんにはいろいろとあった過去の人なんだ」
好奇心に目を輝かせていた女子たちは黙った。
バツの悪い顔をする。
「まあ、確かにそうだよな。俺もさ、元カノとすれ違うだけでも気まずい思いをしてる。すんげえ遠くからでもこっちへ来るのがわかるくらい殺気を感じる」
本当かどうかはわからないが、西宮がそう言って茶化した。
小野に怯んだ皆が笑った。
それで、皆が自分のことに置き換えて考えていた。
「あ、ごめんね。私達、如月さんを傷つけるつもりはなかったの。あのテレビに出ている井上さんを、直接知っているってことで興奮してた。今、会いたくても学校には来ないし、幻の生徒になっちゃってるでしょ。本当にごめんなさい。私も元カレのことを話してって言われたら、怒っちゃう」
「あ、いいんです」
ほっとしていた。
小野は口数は少ないが、いざという時に言ってくれた。
男らしいと思う。
けど、なんとなくしらけムードになっていたので、少しだけファンサービスをすることにした。
「じゃ、ちょっとだけ井上さんのこと話すね」
そういうと女子たちの顔が輝いた。
「井上さんは、あのドラマに出ているような人です。女の子に優しくて、すごく気を使ってくれた。古風なところもあって、オレについてこいっていうタイプだったかな。喧嘩をしてもすぐに忘れてくれるさっぱりした人でした」
そう、彼は優しかった。
人には長所と短所がある。
記憶に残るのは短所の方が強いが、こうして思い出してみるとそういう所が彼の長所だった。
いいところだけを披露すればいい。
ファンの夢を裏切る必要はないのだ。
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