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二人、電車を乗り継いでいく。
「こりゃ、確かに大学まで遠いな。始めの頃、よく毎日通ったなぁ」
と言われた。
「うん、でも早朝に出るから電車はすいているの。それほど負担には思わなかった」
小野とつきあうようになって、初めてその距離を認識したのだ。
近ければもっと長く一緒にいられるのにと、一人電車に揺られてそう思った。
友香の家は駅からすぐ近くだから、夜でも一人で帰ることはできた。
それでも小野が途中まで一緒にきてくれたことはある。
しかし、彼の帰りのことを考えると、家まで送ってもらうにはそれも負担となっていた。
それが今日は、二人で実家へ向かっていた。
なんとなく、不思議な感じがしていた。
正月二日目になると電車内も混雑していた。
晴着を着ている華やかな女性たち、挨拶に回ると思われるスーツ姿の男性もいる。
小野の格好は全く違和感はなかった。
コーヒー豆をもらったから手土産はいらないといったのに、小野がなにかを買っていくと駅に降り立って開いている店をみていた。
いつものケーキ屋が開店していた。
あそこのケーキなら母も喜ぶ。
そう小野に伝えると、そういうインフォメーションを待ってたんだとばかりにあれこれ買い込んでいた。
兄夫婦がいるとしても食べられないくらい買っていた。
徒歩一分くらいで実家へ到着した。
家の前に立つ。
少しドキドキしていた。母の表情が怖かった。
以前から小野のことは伝えていたが、友香の言うことと他の人が受ける印象が違うこともあるだろう。
母が小野をどう受け止めてくれるだろうか。
いつもは自分で玄関を開けてただいま、というが、今日は小野がベルを鳴らし、ドアが開くのを待った。
新婚旅行の帰りに手土産を持ってきたそんな状況を想像していた。
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