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母が出てきた。
珍しく化粧をしていて、小奇麗にしている。
小野を見るとにっこり笑った。
ほっとする。
いつもは少し変人の母だが、今日は世間一般の母親を装ってくれるようだ。
兄の和将とその嫁の沙織もにっこり迎えてくれた。
甥の茂樹も走り回っていた。ずいぶん会ってないから、少し人見知りをしているよう。
和将は小野を見ると茶化すように言った。
「おっ、こちらが友香のプリンスか」
「お兄ちゃんたらっ」
小野も笑みを浮かべる。
母は小野が買ってきたケーキとコーヒー豆に感激していた。
特にコーヒー豆は、早速ミルに入れて挽きはじめていた。
「このブランド、試してみたかったの」
沙織もいつの間にか台所へきていた。
お皿を出したり、コーヒーカップを戸棚から出したりしていた。
今まで沙織はうちへ来ても何も手伝おうとしなかった。
ずっとお客さんのつもりでいたらしい。
割と天然タイプの嫁だったが、今日は積極的に手伝おうとしている。
小野が来たことで、自分はここの身内で、もてなす側だと考えたようだった。
沙織がケーキをリビングへ持っていった。
友香たちも自分のコーヒーマグを持って、リビングへ移動しようとしていた。
しかし、沙織が面白いものを見たとばかりに慌てて戻ってきた。
「ね、あの三人、見て」
父と兄、小野の三人組は、さっきまで昨年のビッグニュースの話で盛り上がっていたはずだ。
何事かと思いながらそっとリビングを覗くと、三人はテレビを見入っていた。
「三人が同じ表情でしょ。テレビを見ているようで、実際には見ていないの。頭の中は別のことを考えていて、まるで異次元に飛んでいるかの表情なのよ」
そう言われるとそうかと思う。
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