友香の実家

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「ねっ、夕べは彼の家に泊まったんだって。一緒の部屋に寝たの? それとも別?」 「あ、夕べはまあ・・・・・・一応同じ部屋に、彼の部屋に泊めてもらいました。私はベッド、で彼はその床に布団を敷いてもらって」  結局は二人で布団に寝たとは言わないでいる。  しかし、それだけで沙織は満足気な顔をした。 「あ、でも一応、私は別の部屋に泊まること、勧められたんだけど私が一緒でいいって言ったから」  小野の家族の常識を疑われても困るから、弁解するように付け加えていた。 「そうよね。つきあってる彼女を客として迎えるって複雑なとこよね。夫婦ならいいんだけど、その前の段階ってやっぱりその家族も迷うとこよね」  友香は、沙織が婚約中にこの家へ泊っただろうかと考えていた。  沙織はその友香の考えを読んだ。 「私達はそういう事、なかったの。お互いの家がそれほど遠くなかったし、どんなに遅くなっても和将さん、家まで送ってくれた」  沙織はそう言って、ちらりと兄を見た。かなり声をひそめて言う。 「今朝、ここへきて友香ちゃんのことを聞いたの。彼氏の家に泊まって、そのまま直接ここへ来るって。和将さん、複雑な思いがあるみたいよ」 「え、なんで?」  意外だった。  兄なら、そんな若者の自由な性にも寛大に許してくれると思っていたから。  じゃあ、今夜、小野と同じ客間に寝ると言ったら兄は怒りだすのだろうか。  友香の視線を感じてか、兄がこっちを見た。  そこで会話がストップしていた。 「なに?」 「あ、ううん。別に」 「そうか、何か言いたそうな顔だったぞ」  兄はいつも友香の味方だった。  アメリカ留学をしたいと思ったときも兄が助言をしてくれた。  いつもうまくいくようにしてくれていた。  そして、井上のことも。兄には一度井上に紹介していた。  一人でこっちへ出張していた時、お茶を飲むだけだったが、会ってもらっていた。  そしてその後の井上と別れ、傷心のあと、友香を元気づけるためか、広島のお菓子をたくさん送ってくれたこともある。  それから小野と出会い、つきあうようになった。  そんな事情もあり、小野のことは兄には報告していなかった。  もう余計な心配をかけたくなかったこともある。  それでも、今度小野と二人で住むことにしたということを先に兄に言っておこうと思った。
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